鈴木『群論』の問題を解いてみる−第1章 §1

さっそくやってみた.むむっこれは...すごい丁寧なヒントがついている.この調子でヒントを出してくれていたら,サクサクいけそうだ.

§1−1.
単位元と右逆元の存在のみで群の定義と等価であるという問題であるが,もうヒントそのままである.
任意のa\in Gに対して,右逆元a'\in Gが存在する.さらにそのa'に対する右逆元をa''とする.積aa'a''の結合順番を変えて計算すると (aa')a''=ea''=a(a'a'')=ae=aを得る.するとea=e(ea'')=(ee)a''=ea''=aが成立するため,eは左単位元でもある.そうなるとea''=aより,直ちにa''=aであるから,a'a=a'a''=e. すなわち a'は左逆元でもある. □


§1−2.
単位元と右逆元の存在に変えるとどうなるかという問題である.これもヒントの誘導に従えば解ける.
H=Geと置く.Hにはee=eが含まれており,Hの元に対しては,(ge)e=g(ee)=geであるからeは右単位元である.一方,geの逆元はgの右逆元をg'とすれば,(ge)(g'e)=g(eg')e=gg'e=ee=eであるから,g'egeの右逆元であり,それは形からHの中に存在する.よって,§1−1の結果から,Hは群となる.
U=\{x|xe=e\}と定義する.任意のaに対して,§1−1と同じようなaa'a''の計算をおこなうとa''=ea''=(aa')a''=a(a'a'')=aeが成立する.これから,(a'a)e=a'(ae)=a'a''=eであるから,a'a\in Uとなる.そこで(ae)(a'a)=a(ea')a=aa'a=(aa')a=ea=aなる分解を考えると, h=ae\in H かつ a'a=u\in Uとなっている.
次に分解の一意性であるが,h_1u_1=h_2u_2とする.右からeを掛けて,h_1u_1e=h_1e=h_2eを得る.これはHの元としては同じものとなる.a''=aeであったから,h_1u_1=h_2u_2に左からh_1'を掛けると,左辺は
h_1'h_1u_1=h_1'h_1(eu_1)=h_1'(h_1e)u_1=(h_1'h_1'')u_1=eu_1=u_1
となり,右辺は
h_1'h_2u_2=h_1'h_2(eu_2)=h_1'(h_2e)u_1=h_1'(h_1e)u_2=(h_1'h_1'')u_2=eu_2=u_2となるから,u_1=u_2である. □


これだけではよくわからないので,例を考えてみた.
G=\{\begin{pmatrix}a&b\\0&0\end{pmatrix}| a,b\in \mathbb{R}^*\}
e=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}とすると,
\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&b\\0&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a&b\\0&0\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}a&b\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a^{-1}&0\\0&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}
であるから,左単位元と右逆元が存在する.
このとき,H=Ge=\{\begin{pmatrix}a&b\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}|a,b\in \mathbb{R}^*\}=\{\begin{pmatrix}a&0\\0&0\end{pmatrix}|a\in\mathbb{R}^*\}\simeq \mathbb{R}^*.
また,ge=eならば,a=1となるから,
U=\{\begin{pmatrix}1&b\\0&0\end{pmatrix}|b\in \mathbb{R}^*\}.
たしかに HU={\{\begin{pmatrix}a&0\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&b\\0&0\end{pmatrix}|a,b\in \mathbb{R}^*\}=\{\begin{pmatrix}a&ab\\0&0\end{pmatrix}|a,b\in\mathbb{R}^*\}=G となっている.