[集合論] Real Numbers その2(Jech本4章 p.40)

 今回のネタは定理4.5『実数の中の任意の完全集合の濃度は\mathfrak{c}』である.

 完全集合とは,孤立点を持たない閉集合のことで,孤立点をもたないとは『任意の点のどんな開近傍もその点以外の点を含む』ことである.これと同値な定義としては,『任意の点に対して,その点に収束する点列でその点以外の点からなるものが存在する』というのがあるが,実はこの同値の証明(『開近傍』⇒『収束点列』の方向)には選択公理が必要なことが知られている.後の話の展開の都合でここでは『開近傍』での定義を孤立点をもたないという定義として採用する.


<定理4.5の証明(よくあるバージョン)>
完全集合をPとする.P区間[n,\ n+1];n\in \mathbb{Z}で区切っていくと,そのどれかには区間の内点にPの点を含む区間がある(そうでないと区間の端点がPの孤立点になるから)のでそれをI_\phiとする.ちなみにP\cap [n,\ n+1]らは完全集合でないことがあることに注意.たとえば区間[0,1]は完全集合だが,[0,1]\cap[1,2]=\{1\}は完全集合ではない.区間の端点が孤立点になってしまうことがあるからである.I_\phiの端点がP\cap I_\phiの孤立ならI_\phiを少し縮めてP\cap I_\phiが完全集合とできる.
 P\cap I_\phi有界ならその上限lと下限uが存在し,どちらもP\cap I_\phiの点である(∵P\cap I_\phi閉集合だから).さて,l,uP\cap I_\phiの孤立点ではないので,l,uのそれぞれを中心とした(u-l)/2より小さい半径の開区間を考えれば,l < a < b < uなるようなa,b\in P\cap I_\phiが存在することがわかる.

そこで交わらない2つの閉区間I_0:=[l,a]I_1:=[b,u]と定義する.ただし,先に述べたのと同じ理由でaI_0\cap Pの孤立点になることがあるので,そういった場合はすこしaを小さくとりなおせば,I_0\cap Pが完全集合とできる.bについても同様である.このときI_0,I_1の長さは1/2より小さい.I_0 \cap PI_1 \cap Pl,uのいくらでも近くにPの点があるのでそれぞれの区間の内点にPの点が存在する.以下この区間の分割作業を続けていくと,[0,1]からなる長さnの任意の有限列sに対して,

(i) I_s \cap Pは完全集合
(ii) I_sの長さ  \le 1/n(上の構成では実際は < 1/{2^n})
(iii) I_{s\frown 0},\ I_{s\frown 1} \subset I_s かつ I_{s\frown 0}\cap I_{s\frown 1}=\phi(s\frown 0は列sの後ろに0を追加した列,等である)
となるような区間I_sが作れる.
さて,f\in \{0,1\}^\omegaに対して,Pの点 P\cap_{n=0}^\infty I_{f\upharpoonright n}を対応させることで,単射 \{0,1\}^\omega\to Pが構成できるので 2^\omega=|\{0,1\}^\omega| \le |P| \le |\mathbb{R}|=2^\omegaと結論が得られる.
 少し戻って,P\cap_{n=0}^\infty I_{f\upharpoonright n}が空でないことを証明しよう(空でなければ一点のみを含むことは区間の長さがいくらでも小さくなるので容易).P\cap_{n=0}^\infty I_{f\upharpoonright n}=\phiなら (P\cap I_\phi) \cap_{n=0}^\infty I_{f\upharpoonright n}=\phi.これはすなわち P\cap I_\phi \subset \cup_{n=0}^\infty I_{f\upharpoonright n}^C となり,右辺は左辺の開被覆になっている.ところで左辺は有界閉集合であったからコンパクト.ゆえに右辺から有限開被覆が選べるがその中で一番大きなnに対して,P\cap I_{f\upharpoonright n}=\phiとなるので矛盾である□

 とまあ,証明はできるのだがひとつ気にいらないことがある.それはこの証明ではどう見ても『選択公理を使っている』ことである.しかし,Jech本では言及していないが,調べてみると定理4.5は選択公理を仮定しなくても証明できるらしいのである.\mathbb{R}を定義するには選択公理は不要なので,定理4.5の証明に選択公理がいるかいらないかはそれなりの意味がある.上の証明で,選択公理を使っていそうなアヤシイところを検討してみよう.要は有限のところでのI_sの存在はよいのだが,n \mapsto I_{f\upharpoonright n}という対応が列挙なので(集合として)関数になっている保証がないのである.この対応が関数でなければその共通集合は作れない.

I_\phiの存在は問題ない.
I_\phiの上限lと下限uの存在は\mathbb{R}の性質なので問題ない.
a,bの選び出し部分はNGである.『存在するので一つ取ってくる』を論理式で書けるような規定にしなければならない.証明を少し修正して,ぴったり(u-l)/4の長さの閉区間 [l,l+(u-l)/4]を考えよう.もし右の端点l+(u-l)/4Pの元であってかつP\cap [l,l+(u-l)/4]の孤立点でないならa:=l+(u-l)/4としよう.右の端点がPの元であってもP\cap [l,l+(u-l)/4]の孤立点だったり,Pの点でないときはP\cap [l,l+(u-l)/4]の最大元をaと定める.同様の方法でbも定める.この定義ではa,bがユニークに決まってしまう(かつ定義を論理式で書ける)ので以下の繰り返しのステップでこの手法を使えば,選択公理は不要となる.
\mathbb{R}有界閉集合Cはコンパクト.いわゆるハイネ・ボレルの定理である.この定理の証明に選択公理が不要だというのは私は今回調べてみて初めて認識した.この定理の背理法での証明のプロセスを少し復習してみる.ある開被覆 C\subset \cup \mathcal{O}が存在してこれからどんな有限個を選んでもCを被覆できないとする:

(i)n=1として,C有界集合なので長さが1/2^nの有限個の閉区間で覆える.
(ii) この閉区間で区切られたCのどれかは,元と同じように開被覆 \cup \mathcal{O}からどんな有限個を選んでも被覆できないという性質を持っている(∵そうでないなら各々の有限開被覆を全部集めればCの有限開被覆ができてしまう).
(iii) Cの代わりに(ii)の非コンパクトである集合を選んで,nを一つ増やして (i)のステップに戻る.が,ここで勝手なものを選ぶのではなく,(ii)の非コンパクトな性質をもつ閉区間のうち,一番左にあるものを選ぶと決めると選択公理の使用を避けることができる.
 このように作った有界閉集合の減少列は長さが0に近づくので,その共通集合は一点である.共通集合が空でないのは,各々の有界閉集合の最大値の集合(これが集合になるというのが肝要)は\mathbb{R}有界な非増加列なのでその極限xが存在し,これはまた各々の有界閉集合の最小値の極限とも一致する.最大値の集合はCの点でC閉集合だからx\in C.なのでxは常に各々の有界閉集合の最小値と最大値の間に存在し,かつCの点であるので,共通集合に含まれている□