[集合論] Real Numbers その4(Jech本4章 p.42)

 4章本編の最後に取り上げるのは,Baire空間である.Baire空間 \mathcal{N}:=\omega^\omegaは,記述集合論の道具の一つで無理数全体の集合と位相同型(ここで無理数全体には\mathbb{R}からの相対位相を入れている)で,記述集合論では実直線と同一視されるものらしい.記述集合論についてはJech本では本格的には扱っていないようだが,『公理的集合論のモデルはいろいろありすぎて困るので解析学に関係ありそうなものに絞ってみても結構深い』というような分野であると想像している.
 さて,Baire空間 \mathcal{N}に位相を入れるのに,次の部分集合を開基にして位相を定義する.
任意の自然数の有限列s= < a_k;\ k < n > に対して,
O(s):=\{ < c_k;\ k\in \mathbb{N} > : (\forall k < n) c_k=a_k\}

これは\mathbb{N}に離散位相を入れたときに,無限積\mathbb{N}^\mathbb{N}に入れる位相としてよくある直積位相というやつになっている.ちなみにテキストにはO(s)閉集合にもなっているというコメントがあるが,O(s)^C=\cup_{s'}O(s')\ ; ここにs'(\exists k < n)s'_k\neq s_kなる有限列,だからである.さて,\mathbb{R}-\mathbb{Q}は正と負に分けると(-\infty,0)\mbox{の無理数}\cup (0,\infty)\mbox{の無理数}となるが,負の時 x\to \frac{1}{2-x},正の時x\to 1-\frac{1}{2+x}写像すると無理数であることを保ちながらそれぞれ(0,1/2)(1/2,1)の中の無理数の集合に位相同型に写像される.このことから結局 \mathbb{R}無理数全体と開区間(0,1)無理数全体は位相同型であることがわかる.そこで \mathcal{N}から(0,1)無理数全体への写像を次のように連分数を使って定義する:

f:\mathcal{N}\to (0,1)-\mathbb{Q};

f( < c_k;k\in \mathbb{N} > ):=\frac{1}{1+c_0+\frac{1}{1+c_1+\frac{1}{1+c_2+\frac{1}{1+\cdots}}}}


ちなみにJech本では\mathbb{N}0を含むので上のように1を足してある.本文ではひっそりとpositive integerと言っていたりするが,そこはBaire空間の定義とずれがあるので気持ちは悪い(もちろん位相同型にはちがいないが).
 さて,自然数の無限列に対して右辺は収束するのでその極限値を像とするのであるが,(0,1)-\mathbb{Q}の任意の元に対してその連分数展開を作れば展開は無限に続くので左辺の元になっていることがわかる.逆に像が有理数になることはない(∵連分数展開が有限回で止まってしまうため矛盾する).要するにf全単射である.さらに位相同型になっていることは,c\in \mathcal{N}に対して c'cc_0を外してc_1から以下続けた自然数列としたときに,f(c)=\frac{1}{1+c_0+f(c')}なので,|f(a)-f(b)| = f(a)f(b)|a_0-b_0+f(a')-f(b')|.ここでもし  a_0 \neq b_0 なら右辺の絶対値記号の中は0< f(a'),\ f(b') < 1なので0になることができない.そこでもし左辺が十分小さくとれるなら a_0=b_0でなければならないことになる.その場合に今度は |f(a')-f(b')|を同じように評価すれば a_1=b_1となり,以下左辺を十分小さくとれるならいくらでも大きなnに対してa_k=b_k;\ k < nが成立するようにできる.逆に,a_k=b_k;\ k < nなら |f(a)-f(b)| = \prod_{k < n}[f(a^{(k)})f(b^{(k)})] |f(a^{(n)})-f(b^{(n)})| (ここで a^{(0)}=a,\ a^{(1)}=a'等々)で,f(a)f(a')=\frac{f(a')}{1+a_0+f(a')} \le \frac{f(a')}{1+f(a')} \le \frac{1}{2}なので,右辺の積の部分が  (1/2)^nのオーダで小さくなっていくことがわかるため,nを大きくすると左辺はいくらでも小さくできる.以上からfもその逆写像も連続であることがわかり,Baire空間と(0,1)-\mathbb{Q}が位相同型であることが証明された.
 テキストのコメントではBaire空間\mathcal{N}を記述集合論では実直線\mathbb{R}と同一視するそうだが,そのありがたみは現時点ではよくわからない.\mathcal{N}\mathbb{R}が似た性質があるという一つの根拠は定理4.6(Cantor-Bendixsonの定理)と定理4.8(Baireのカテゴリー定理)が成立するとのこと.証明は < J_k >の代わりにすべての開基O(s)の集合を使えばよさそうだ.後者は列の長さをnとすると列の全体の濃度は\mathbb{N}^n\sim \mathbb{N}なので結局 \mathbb{N}\times \mathbb{N}\sim \mathbb{N}可算集合である.\mathcal{N}に対するCantor-Bendixsonの定理の証明は本節の最後にある.

 さて,Baire空間\mathcal{N}\mathbb{R}が類似品というような話をする一方で,\mathcal{N}の部分集合が完全集合であるための必要十分条件を以下の木(tree)の概念を使って定式化する Lemma 4.11が結局,本節のミソであるようだ.\mathbb{R}には直接的には木を定義するような自然な構造がないので,そこが\mathcal{N}との差異と言えば差異だろうか.
 Seqを全ての自然数の有限列の集合として,T\subset Seqについて,

T:tree\ \stackrel{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow} \ (\forall x\in T)(\forall n\in \mathbb{N}) ( (\exists s\in Seq)(s=x\upharpoonright n) \Rightarrow s\in T)

と定義する.また,\mathcal{N}Tを通る無限の経路という部分集合[T]
[T]:=\{f\in \mathcal{N}:(\forall n\in \mathbb{N}) f\upharpoonright n \in T\}

と定義する.[T]閉集合になるのは,f\notin [T]なら,\exists n (f\upharpoonright n \notin T)だが,このときfを含む開集合O(f\upharpoonright n)の元はすべて[T]の元ではないからである.
 逆にF\mathcal{N}閉集合として,
T_F:=\{s\in Seq:\ (\exists f\in F)s\subset f\}

と定義するとT_Fは木であり,[T_F]=F(∵木であること,F\subset [T_F]は定義から自明である.逆向きはf\in [T_F]なら(\forall n\in \mathbb{N}) f\upharpoonright n \in T_Fで,T_Fの定義から,nごとに(\exists g \in F)f\upharpoonright n=g\upharpoonright n.ところがもし,f\notin FだとするとF閉集合だったから,(\exists s\in Seq)(f\in O(s) \wedge O(s)\cap F=\emptyset)となるが,これはsの長さをnとすると,f\upharpoonright n=g\upharpoonright nなるような g\in Fが存在しないといっており,先の条件に矛盾する).ところで蛇足であるが,T_{[T]}=Tであろうか? 定義からT_{[T]}\subset Tは明らか.しかし,この逆向きの包含関係は成立しない.例としてはつまらないが T:=\{\emptyset,<1>\}は木だが,[T]=\emptyset (∵ \mathcal{N}には無限列しかない).T_{\emptyset}=\emptyset \neq T

さて,\mathcal{N}の完全集合を木の言葉で定式化するために次の定義を行う.
空でない木Tに対して:

T:\mbox{完全 }\stackrel{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}\ (\forall t\in T)(\exists s_1,s_2\in T)(s_1 \supset t \wedge s_1 \supset t \wedge \neg(s_1 \supset s_2)\wedge \neg(s_2 \supset s_1))

この定義は要するに,任意のt\in Tに対して,有限列tから先を伸ばしたs_1,s_2 \in Tがあって,かつその2つは先のどこかで異なっているというものが存在するということである.まず完全でない例としては f\in \mathcal{N}に対して,T_{\{f\}}がある.この例だと常にs_1,s_2 \in T_{\{f\}}\ \Rightarrow \ s_1 \supset s_2 \mbox{ or }s_2 \supset s_1だからである.簡単な完全な木の例は,既出のO(s);\ s\in Seqに対するT_{O(s)}がある(O(s)閉集合でもあることに注意).これが完全な木であるのはT_{O(s)}sの後は勝手な列が取れることから明らかである.これらの例はそれぞれ,\mathbb{R}の孤立点(一点)と閉区間に対応しているような感じである.

以上の準備のもと,Lemma4.11のステートメントは非常にシンプルである.

Lemma 4.11
閉集合F\subset \mathcal{N}に対して:

F:\mbox{完全 }\Leftrightarrow\ T_F:\mbox{完全}

テキストに証明はついていないが,ほぼ定義の言い換えのようなものである.
<証明>
F:\mbox{完全 }\Leftrightarrow\ (\forall f\in F)(\forall t\in Seq)(f\in O(t)\Rightarrow (\exists g\in F)(g\neq f \wedge g\in O(t)\cap F))であるが,右辺の全称記号の順番を入れ替えてみると有限列tを伸ばした異なる無限列f,gが存在するのでそれらを適当に有限で切ればT_Fが完全の条件と一致する.逆に任意のf\in Fに対して,fを有限で切ったものをt\in SeqとすればT_Fが完全である条件は,O(t)の中にfと異なるFの元が存在する(∵s_1,s_2のどちらかはfとは異なるg\in Fを有限で切ったものになっている)という主張であり,すなわちfFの孤立点ではない □

 T\subset Seqに対して,

T':=\{t\in T:(\exists s_1,s_2\in T)(s_1 \supset t\wedge s_2 \supset t \wedge \neg(s_1 \supset s_2) \wedge \neg(s_2 \supset s_1)\}

と定義すると,T=T'Tが完全であることの定義に一致している.また,次に[T]-[T']を考えたいわけだが,定義からT'が木である(∵t\in T't\supset sならば s_1,s_2\supset t \supset sなのでs\in T')ことを注意しておく.
 さて,[T]-[T']が高々可算集合であることを証明する.f\in [T]-[T']とすると任意のn\in \mathbb{N}に対して,f\upharpoonright n\in Tであるが,一方f\notin [T']であるからどこかのnf\upharpoonright n\notin T'でなければならないので,そうなるような最小のnに対して,s_f:=f\upharpoonright nと定義する.s:[T]-[T']\to Seqである.Seq可算集合だったのでこの対応がone-to-oneであることを示せれば十分である.f,g\in [T]-[T']で,f\neq gとするとどこかのn\in \mathbb{N}で,f\upharpoonright n\neq g\upharpoonright nとなるが,このような最小のものを改めてnとしておこう.もし,s_f=s_gならばm\in \mathbb{N}があって,f\upharpoonright m=g\upharpoonright mなので,m < nでなければならない.しかし,s_1:=f\upharpoonright n,\ s_2:=f\upharpoonright nとするとs_1 \supset f\upharpoonright nかつs_2 \supset f\upharpoonright nで,s_1s_2はcompatibleでないので,s_f=f\upharpoonright m\in T'だが,これはs_fの定義に反している.よってsはone-to-oneである □

 以上の準備の上で,例によって

T_0:=T,\ T_{\alpha+1}:=T'_\alpha
T_\alpha:=\cap_{\beta < \alpha}T_\beta (\alphaが極限順序数のとき)

と定義する.T_\alphaは非増加であるが,もともとT\subset SeqなのでTは高々可算集合である.もし,\forall \alpha(T_{\alpha+1}\neq T_\alpha)であるとOrdが集合になるという矛盾が出るといういつもの論法で,T_{\theta+1}= T_\thetaなる順序数\thetaが存在する.また,\alpha < \thetaに対して,T_\alpha-T_{\alpha+1}の最小元を対応させることができるので,\theta \to T_0なるone-to-oneが存在する.よって|\theta| \le \omega. そこでテキストの通りに \theta < \omega_1となる(\theta \le \omegaとは限らない).T'_\theta=T_{\theta+1}=T_\thetaなので,空でなければ[T_\theta]は完全である.
 ここで補題として,[\cap_{\beta < \theta}T_\beta]=\cap_{\beta < \theta}[T_\beta]を示そう.
f\in [\cap_{\beta < \theta}T_\beta] \Leftrightarrow (\forall n\in \mathbb{N})(\forall \beta < \alpha)f\upharpoonright n \in T_\beta
\Leftrightarrow (\forall \beta < \alpha)f\in [T_\beta]\Leftrightarrow \cap_{\beta < \theta}[T_\beta]

最後に [T]-[T_\theta]=\cup_{\alpha < \theta}([T_\alpha]-[T'_\alpha])を示す.T_\theta \subset T'_\alpha=T_{\alpha+1}なので 左辺 ⊃ 右辺.逆に左辺の元をfとすると,f\notin [T_\beta]なる最小の\beta \le \thetaが存在する.もし,\betaが後続順序数なら,\beta=\beta'+1として,f\in [T_\beta']-[T_\beta]=[T_{\beta'}]-[T'_{\beta'}]なのでfは右辺に属する.もし,\betaが極限順序数ならば,T_\beta=\cap_{\gamma < \beta}T_\gamma補題より f\notin [T_\beta]=\cap_{\gamma < \beta}[T_\gamma]. ところが,\betaの最小性から f \in \cap_{\gamma < \beta}[T_\gamma]なので矛盾.つまりこのケースは実は起こらない.□
 さて,[T]-[T_\theta]=\cup_{\alpha < \theta}([T_\alpha]-[T'_\alpha])の右辺は,高々可算集合の高々可算集合個の和であるので,高々可算集合である.F\mathcal{N}の非加算な閉集合とするとF=[T_F]と書けるので,先の等式は,Fが完全集合と高々可算集合の和に分解されるというCantor-Bendixsonの定理の\mathcal{N}バージョンである.