近藤『群論』をこっそり読む その1

Awodeyをほったらかして、早半年。抽象的な数学の後は具体的な数学が恋しくなる。
そこで本来のこのブログのテーマであった(はずの)群論に回帰してみた。

群論 (岩波基礎数学選書)

群論 (岩波基礎数学選書)

取り上げるのは、もう古典的な群論のテキストである近藤武著 岩波基礎数学講座『群論』である。このシリーズの大体のテキストの欠点でもある問題の解答がない点は、残念ながら本書でも踏襲されており、画竜点睛を欠くのだが、上の合本バージョンである岩波基礎数学選書では解答とヒントが付いているらしい。私の持っているのは1976年の初版の三分冊バージョンであり、解答はついていない。しかし今回、じっくり読んでみてやっぱりいい本だと思った。問題のレベルもなかなか適切であると感じた。Amazon書評ではミスやギャップがあるとの指摘があるが、まさにその通り。しかし、まあ、読み終わったIの範囲ではごく普通の程度であり、その後の版では直っているかもしれないが、古書で安価に出回っているので、古い版で勉強される方の便宜のためにもこのブログで気が付いたところをちょっと難しいと思った問題も含めて紹介してみようと思う。


まずは、ミス部分であるが、第1章1.5節 p.32のZ(m,n,r,k)関連の定義がまったくダメである。私も相当ここで悩んだ。もとの定義では計算が全然合わないのである。

ZxZの演算の定義が間違っていて、正しくは

(i,j)(i',j')=(i+r^{\tiny (n-1)j}\,i',j+j')

である。その次のm,n,kの条件式は正しいが、ZxZの上の同値関係の定義に誤りがある。正しくは

(i,j)\sim (i',j') \Leftrightarrow j-j'\equiv 0(mod\quad n),\quad (j-j')k/n+i-i'\equiv 0 (mod\quad m)

である。この訂正とm,n,kに対する条件により、(1.17)が成立する。(実は正確にはm,n,kに対する条件は、同値関係と半群の演算がコンパチブルであることのために要請されている。(1.17)は同値関係の条件から直ちに出てくる。)

b^{\tiny n}=a^{\tiny k}を確認してみよう。左辺は\overline{(0,n)},右辺は\overline{(k,0)}なので、(0,n)\sim (k,0)かどうかであるが、

j-j'=n \equiv 0 (mod\quad n) かつ (j-j')k/n+i-i'= (n-0)k/n + 0-k = 0
なので成立している。


1.7節の最後に読者への挑戦として、A_8PSL(3,4)は同型にならないことを調べよがある。これについて、Robinson著 "A Course in the Theroy of Groups"の3.2節にヒントがあった。『A_8には位数が15の元 (1\quad 2\quad 3\quad 4\quad 5)(6\quad 7\quad 8)が存在するが、PSL(3,4)は位数15の元を持たない』
さらにヒントとして、SL(3,4)における rational canonical formを使えとある。
この線に沿ってやってみたところ、ちょっとした計算は必要だが、かなり初等的に解けたので結果を紹介する。SL(3,4)\to PSL(3,4)での原像wを考えると、wの冪が初めてスカラー単位行列F_4^*の元の積)になったときにその冪数がwに対応するPSL(3,4)の元の位数となる。wは最初からrational canonical formであるとしてよい。またF_4=F_2[X]/(X^2+X+1)としておく。

1) w=\begin{pmatrix} a & 0 &0 \\ 0 & b & 0 \\ 0 & 0 & c \end{pmatrix} a,b,c \in F_4^*かつabc=1の場合:wは3乗すると単位行列となるので、このタイプの元は位数1,3の元のみである。


2) w=\begin{pmatrix} a^{\tiny -1} & 0 &0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & a & b \end{pmatrix}の場合: このタイプの元の位数は2,3,5となる。位数5になるのは、ab\neq 1の場合である。確認してみよう。

w^5=\begin{pmatrix} a & 0 &0 \\ 0 & a & a^2+ab^2+b \\ 0 & a^2b^2+ab+1 & a^2b+b^2 \end{pmatrix}となる。(ab\neq 0なので a^3=1などを使う。また係数はF_2の元なので、係数に2がかかるとその項は0となることを使う。)仮定ab\neq 1より、(ab)^2+ab+1=0が成立しているので、a^2+ab^2+b=bb^2(a^2+ab^2+b)=b(a^2b^2+a+1)=0。また、a^2b+b^2=b^2b(a^2b+b^2)=b^2(a^2b^2+1)=b^2(ab)=aであるので、右辺はスカラー行列となっている。ちなみにab=1のときの位数は3である。


3) w=\begin{pmatrix} 0 & 1 &0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 1 & a & b \end{pmatrix}の場合: このタイプの元の位数は3,4,5,7となる。位数5になるのは、ab\neq 1の場合である。ちなみにab=1のときの位数は4となる。これらも直接計算で確認できる。
参考までに
w^5=\begin{pmatrix} a+b^2 & a^2+ab^2+b & 1+b^3 \\ 1+b^3 & b^2+ab^3 & a^2+ab^2+b \\ a^2+ab^2+b & 1+b^3+a^2b^2+a^3+ab & a^2b \end{pmatrix}である。

ちなみに位数7になるのは、a\neq 0,\quad b=0またはa=0,\quad b\neq 0の場合である。
いずれの場合も位数15の元は存在しない。□

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問1.37
対称群S_nの生成系の問題。(なぜかはてな記法で mathfrak{S}が思ったように機能せず)
任意の互換が生成されることを示せばよい。(1 2)からスタートしてヒントを使えば、(1 i) i=2,3,..,n が生成できる。たとえば (1 3)=(2 3)(1 2)(2 3)、(1 4)=(3 4)(1 3)(3 4)。そして (i j)=(1 j)(1 i)(1 j) でおしまい。□


問1.38
GL_n(C)については、P_{(i,j)}Q(i,c),R(i,j,c)などから生成されることを示す。ヒントが一見謎であるが、これの右辺は R(j,i,-1)R(i,j,1)R(j,i,-1)と読む。すると左辺はP_{(i,j)}に似ているが(i,j)成分が1ではなくて-1になった行列である。さらに次のステップとして、
\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}
を考えると、先に作ったP_{(i,j)}もどきに左からQ(i,-1)を掛けるとP_{(i,j)}が生成できることがわかる。□

SL_n(C)はちと面倒である。上の議論からSL_n(C)の元はQ(i,c),R(i,j,c)らの積で表すことができる。一方、k\ne i,jならば
Q(k,c)R(i,j,c')=R(i,j,c')Q(k,c)

Q(i,c)R(i,j,c')=R(i,j,c')Q(i,c)  ∵\begin{pmatrix} c & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & c' \\ 0 & 1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} c & cc' \\ 0 & 1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & cc' \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} c & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}

Q(j,c)R(i,j,c')=R(i,j,c^{\tiny -1}c')Q(j,c)  ∵\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & c \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & c' \\ 0 & 1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & c' \\ 0 & c \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & c^{\tiny -1}c' \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & c \end{pmatrix}

なのでQ(i,c)のような元は全部後ろへ固めることができる(むろんQ同士は可換)。それらをまとめると結局、対角行列でその行列式が1であるものとなる。
さらに、
\begin{pmatrix} c & 0 \\ 0 & c^{\tiny -1} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ c^{\tiny -1} & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 1-c \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ -1 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 1-c^{\tiny -1} \\ 0 & 1 \end{pmatrix}
が成り立つので(右辺はすべてRの形)これを利用すれば対角行列部分もRの元で書けることがわかる。□


問1.42
Q_{\tiny 4m}=Z(2m,2,-1,m)を認めたとしよう。位数2の部分群の1でない元は位数2の元であるので、結局Q_{\tiny 4m}の位数2の元は一つしかないということを言っている。具体的に計算してみよう。
(i,j)(i,j)=(i+r^{\tiny (n-1)j}\,i,2j)\sim (0,0)2j \equiv 0 (mod\quad 2),\quad 2jm/2+i+(-1)^{j}\,i\equiv 0 (mod\quad 2m)jm+i+(-1)^{j}\,i\equiv 0 (mod\quad 2m).

最後の条件であるが、j=0,1のときのみ考えればよく、j=1のときはi=0,j=0のときは2i\equiv 0 (mod\quad 2m)なので、i=0,mとなる。結局、位数2の元は\overline{(m,0)}=a^{\tiny m}=b^{\tiny 2}。この元は形からして、a,bとも可換なので中心に属している。Q_{\tiny 4m}/Z \sim D_{\tiny 2m}は(i,j)をそのまま対応させ、基本関係を確認し、位数を比較すればよい。□


問1.44
Nの生成元をa、その位数をm、G/Nの生成元を\overline{b}、その位数をnとする(\overline{b}とはGの元bの同値類への像と考えている。)。するとb^{\tiny n}はNの元でありa^{\tiny k}と書けることになる。またこのときNが正規なのでb^{\tiny -1}abはNに属するため、a^{\tiny r}と書けることにもなっている。これらは(1.17)の関係そのものであるので G\sim Z(m,n,r,k)が予想される。これを証明するには、まずm,n,kの関係式が満たされていることを示さなければならないが、

a^{\tiny k}=b^{\tiny -1}a^{\tiny k}b=a^{rk}より rk\equiv k (mod\quad m)
a=b^{\tiny -n}ab^{\tiny n}=a^{r^{\tiny n} より r^{\tiny n}\equiv 1 (mod\quad m)
より、OKである。

Z(m,n,r,k)\to Ga\mapsto a,\quad b\mapsto bで定義すると、G内で(1.17)が成立するため、Z(m,n,r,k)のユニバーサリティよりGへの準同型がwell-definedに定義できていることがわかり、あとは位数を比較すればそれが同型であることがわかる。□
(この証明からわかるように、Z(m,n,r,k)の正体は問1.44の条件を持つGである)


問1.48
1文字の枠をa_1個、2文字の枠をa_2個...n文字の枠をa_n個並べたものを考え、1からnまでの数字を配置する。その数はn!通り。同じ文字数の枠を入れ替えても同じ置換なので、a_1!a_2!\cdots a_n!で割る。また、長さkの置換の数字を順序そのままシフトしても同じ置換であり、それらはk通りになるため、1^{a_1}2^{a_2}\cdots n^{a_n}で割る。□
その中心の元の(共役類の)型を1^{a_1}2^{a_2}\cdots n^{a_n}とする。長さ3以上の置換が存在すると、その置換の最初の2つの元を入れ替えたものは最初の置換と異なる同じ共役類に属する置換となるため、中心の元であることと矛盾する(中心の元の共役類の元の数は1である)。a_2=1とするとn≧3であることから、使われていない文字を互換の一つの文字と入れ替えたものは同じ共役類に属するため、同じく矛盾。a_2\ge 2のとき、2つの互換の最初の文字を入れ替えると同じ共役類に属する異なる置換になるため、同じく矛盾。□


問1.49
[tex:D_{2n}=]の元はa^k(k=0,\cdots, n-1)またはba^k(k=0,\cdots, n-1)のどちらかの形に書ける。生成元a,bでの共役を計算してみると、a^ka^{-k}ba^kba^{-k}ba^kba^{k+2}が同じ共役類に入ることがわかる(たとえば、b^{\tiny -1}(ba^k)b=ba^{-k},a^{\tiny -1}(ba^k)a=ba^{k+2})。これらを繰り返し使えば、共役類は\{1\}\{a^k,a^{-k}\}(k=1,\cdots, n-1)\{ba^k,ba^{k+2}\cdots ba^{k+n-2},ba^{-k},ba^{-(k+2)}\cdots ba^{-(k+n-2)}\}(k=1,\cdots, n-1)ということになる。ただし、この中には同じ共役類になってしまうものがあるので注意。nの奇偶で分けると
nが偶数のとき、a^{n/2}=a^{-n/2}なので、a^{n/2}の共役類の数は1。a^{k}(k=1\cdots n/2-1)の共役類の数は2、またbの共役類とbaの共役類は被らず、それぞれn/2個の元を持つ。よって、類等式は1+2*(n/2-1)+1+n/2+n/2=2n。
nが奇数のとき、a^{k}(k=1\cdots (n-1)/2)の共役類の数は2、またbの共役類でba^kタイプを尽くしてしまうため、その数はn。よって、類等式は1+2*(n-1)/2+n=2n。□
同様に[tex:Q_{4m}=]の元はa^k(k=0,\cdots, 2m-1)またはba^k(k=0,\cdots,2m-1)のどちらかの形に書ける。生成元a,bでの共役を計算してみると、a^ka^{-k}ba^kba^{-k}ba^kba^{k+2}が同じ共役類に入ることがわかる。以下同様だが、今度は奇偶で分けることなく、1、a^{k}(k=1,\cdots, m-1)a^mbbaが共役類の代表元となり、類等式は1+2*(m-1)+1+m+m=4m。□


問1.50
前半はほぼ自明である。交代群A_nでも元の型による分類ができるが、共役する元が交代群A_nでは偶置換のみに限られるので、一般的には交代群A_nの共役類は、対応する対称群S_nの共役類の部分集合となる。それらの関係を求めるには次の定理が便利である。

<定理>
交代群A_nの元xを考えたとき、

対称群S_nでの中心化群C_{\tiny S_n}(x)が奇置換を含まない ⇔ xの対称群S_nにおける共役類は、交代群A_nでは同じ数の元を含む2つの共役類に分かれる(スプリットする)<証明>
定理1.7により、一般に有限群Gで元xを含む共役類の元の数は、[G:C_{\tiny G}(x) ]である。包含関係 S_n \supset A_n \supset C_{\tiny A_n}(x)S_n \supset C_{\tiny S_n}(x) \supset C_{\tiny A_n}(x)を考えると[S_n:A_n][A_n:C_{\tiny A_n}(x)]=[S_n:C_{\tiny S_n}(x)][C_{\tiny S_n}(x):C_{\tiny A_n}(x)]が成立する。[S_n:A_n]=2であり、C_{\tiny S_n}(x)が奇置換を含まないとき[C_{\tiny S_n}(x):C_{\tiny A_n}(x)]=1でこのとき、[A_n:C_{\tiny A_n}(x)]=[S_n:C_{\tiny S_n}(x)]/2、また奇置換を含むとき[C_{\tiny S_n}(x):C_{\tiny A_n}(x)]=2となるので、[A_n:C_{\tiny A_n}(x)]=[S_n:C_{\tiny S_n}(x)]。□

まず、S_4の型による分類は、1^42^03^04^0,\quad 1^22^13^04^0,\quad 1^02^23^04^0,\quad 1^12^03^14^0,\quad 1^02^03^04^1であり、対応する類等式は、問1.48の公式により、24=1+6+3+8+6 となっている。この型のうち、偶置換であるものは1^42^03^04^0,\quad 1^02^23^04^0,\quad 1^12^03^14^0である。対応する共役類の元の数は、1,3,8であり、この最後の8が問題であるのだが、実はスプリットするのが次のように簡単にわかる。定理1.7より共役類に含まれる元の数は、A_4の位数である12の約数でなければならないが、8はそうではない。よってスプリットするしかないのである。そこでA_4類等式は12=1+3+4+4となる。□
つぎにS_5の型による分類のうち、偶置換であるものは1^52^03^04^05^0,\quad 1^12^23^04^05^0,\quad 1^22^03^14^05^0,\quad 1^02^03^04^05^1であり、それぞれの共役類の元の数は、1,15,20,24である。まず15は奇数なのでスプリットしようがない。24は先の論法と同じように、A_5の位数60の約数でないのでスプリットする。のこりの20が問題なのだが、(4\quad 5)^{\tiny -1}(1\quad 2\quad 3)(4\quad 5)=(1\quad 2\quad 3)は当たり前だが、これは [tex:(4\quad 5)\in C_{\tiny S_5}*1]すなわち、中心化群が奇置換を含むことになり、スプリットしないことがわかる。そこでA_5類等式は60=1+15+20+12+12となる。□

*1:1\quad 2\quad 3