[集合論] Real Numbers その3(Jech本4章 p.40)

 今回のネタは定理4.6 (Cantor-Bendixson)『実数の中の任意の非加算な閉集合Fは,完全集合Pと高々可算な集合Sの和集合となる(F=P\cup S).]』である.系として,定理4.5と組み合わせると『F\mathbb{R}閉集合とすると,|F|は高々可算か,\mathfrak{c}』が得られる.この系は閉集合に限るなら連続体仮説が成立していると言っている.
 さて,独自調査により Cantor-Bendixsonの定理は選択公理を使わなくても証明できるらしいので,テキストの証明をこの観点から眺めてみよう.ところで蛇足ながら,CantorはCantor-Bendixsonの定理を証明しようとして,超限帰納法(超限順序数)をあみ出したそうである(1880年代).先の系にも連続体仮説との関連がうっすら見えるように,Cantorは生涯にわたり連続体仮説の証明に腐心していたらしく,その証明がうまくできないことと集合論の基礎をめぐってのKroneckerの執拗な攻撃により精神を病んでいったとWikiにある.ちなみにKroneckerはLindemannのπが超越数である証明(1882年)を『美しいが無意味.なぜなら超越数は存在していないから』と言ったそうである.真意はもちろん知らないが,『πが代数方程式を満たさない』ことは認めるが,かといって『代数方程式を満たさない数としての超越数』という概念そのものの構成を否定しているのだと思う(直観主義の人だから,補集合を取る操作だけでも考えている世界からはみ出てしまうかもしれないのである).

<定理4.6の証明>
 limit point の定義は『Fの点xがlimit point \stackrel{\mathrm{def}}{\equiv} xを含む任意の開集合がx以外のFの点を含む 』である.以前の記事で述べたように点列での定義は不採用である.記号 A'Aに含まれるすべてのlimit pointの集合を表す.このA'Aから論理式で表現できるため,すべての位相空間のクラスからそれ自身への関数クラスが定義されていると考えてよい.すると次のような超限再帰的な定義が可能である.

F_0:=F,\ \ F_{\alpha+1}:=F_\alpha'
F_\alpha:=\cap_{\gamma < \alpha}F_\gamma; \alphaが0でない極限順序数のとき

しかもF_\alphaは非増加である.出来上がったものは順序数全体のクラスOrdからAのベキ集合への関数クラスとなる.これは超限再帰的な定義なのであって集合を単に列挙しているわけでもないので選択公理の出番はない.
さて,以前にもあった論法だが,もしすべての\alphaについて,\alpha > \theta  \Rightarrow\ F_\alpha \neq F_\thetaが成立すると,OrdからP(A)への単射となっている.この逆関数の関数クラスを作る(像でないところは0にするとか適当でよい)と集合P(A)からOrdへの全射が得られるが,置換公理よりOrdが集合でなければならないが,これは矛盾である.そこで \theta \le \alpha\  \Rightarrow\ F_\theta=F_\alphaなるような最小な\thetaが存在することになる.このとき,P:=F_\thetaとする.P'=F_{\theta+1}=F_{\theta}=Pなので,もしPが空でないなら,完全集合である.Pが空であろうがなかろうが,F-Pが高々可算集合であることを示そう.
 その準備として,両端が有理数であるような\mathbb{R}の開区間の全ての集合を考えてそれら可算集合でインデックス付けしたものを< J_k; k\in \mathbb{N} > としよう.これは有理数\mathbb{N}でインデックス付けできるので,両端を考えると\mathbb{N}\times \mathbb{N}への単射が存在するが,\mathbb{N}\times \mathbb{N}\sim \mathbb{N}なので一つの\mathbb{N}でインデックス付けできる理屈である(途中飛ばして番号を付けなおす必要はある).特に整列集合であるところがミソで,一般的に『XXXの条件を満たす開集合を選ぶ』という選択公理にひっかかるステートメントを『XXXの条件を満たす開集合J_kの内,kの最小なものを選ぶ』とすることで選択公理の使用を避けるという工夫ができるのである.ただ,本証明ではストレートにJ_kらを使うので,そういった工夫はせずとも選択公理は不要となっている.
 さて,F-P=\cap_{\alpha < \theta}(F_\alpha-F_\alpha')を示そう.F_\alpha \supset Pより F_\alpha' \supset P'=Pなので (F_\alpha-F_\alpha')\cap P=\emptysetより 左辺 \supset 右辺はOK.x\in F-Pとして,x \notin F_\alphaなる最小の順序数を改めて\alphaとする.\alphaが後続順序数で\alpha=\beta+1なら\alphaの最小性からx\in F_\betaかつ x\in F_\beta-F_{\beta+1}=F_\beta-F_\beta'. \alphaが極限順序数なら 定義よりx \notin F_\alpha=\cap_{\gamma < \alpha}F_\alphaだが,\alphaの最小性から \forall \gamma < \alpha (x\in F_\gamma)なのでx\in F_\alphaとなり,矛盾してしまう.よってこのケースは実際にはなく,与式は証明された.ちなみに\alpha < \betaならば\alpha+1 \le \betaなので F_\alpha'=F_{\alpha+1} \subset F_\betaとなり,右辺はdisjoint unionになっている.それゆえa\in F-Pとするとa\in F_\alpha-F_\alpha'なる\alphaはユニークに決まり,かつ aF_\alphaの孤立点であることになる.そこで< J_k > のなかからaを含みかつそれ以外のF_\alphaの点を含まないようなものでkが最小のものが存在するので,そのようなkk(a)と書く.あとはこの対応がone-to-oneであることが示されれば,F-Pが高々可算であることがわかるので定理の証明は完了である.b\in F-Pa\neq bとしよう.b\in F_\beta-F_\beta'なる\betaがユニークに存在するが,\alpha \ge \betaと仮定しても一般性を失わない.このときF_\alpha \supset F_\betaなのでk(a)の決め方からa以外のF_\alpha元を含まないため,b\notin J_{k(a)}. なので k(b)\neq k(a)である □


 ついでに定理4.8の証明も補足しておく.これも選択公理を使わない証明となっているが,よくある証明では長さが縮小していく区間を使うがJech本はちょっと違う証明となっている.

定理4.8(Baireのカテゴリー定理) D_0,D_1,\cdots,D_n,\cdots\mathbb{R}の稠密な開集合の可算列とする.このとき D:=\cap_{n=0}^\infty D_nも稠密である.

<証明>
稠密であることを示すには任意の空でない開区間IDが交わることを示せばよい.そこで次のような開区間の減少列を作ってみる:

I_0:=I
I_{n+1}は,I_n \cap D_n \supset \overline{J_k}なるような < J_k; k\in \mathbb{N} > (既出!)の元の中でkが最小のものをk(n)と書いて,そのままI_{n+1}:=J_{k(n)}=(q_{k(n)},r_{k(n)})とする.ちなみにこのようなJ_kが一つでも存在することはI_n \cap D_nD_nが稠密であることから空ではない開集合なので適当な開区間が含まれるがそれを少し縮めて端点が有理数になるようにすれば条件を満たす< J_k; k\in \mathbb{N} > の元になるからである.
区間が小さくなるという条件を入れていないので,\cap_{n=0}^\infty I_nは一点とは限らないが I_nの左の端点(有界かつ非減少)の極限をa:=lim_n q_{k(n)}としよう.a\in I\cap Dであることを示す.a\in Iなのは明らかなので,a \notin Dとしてみよう.すると\exists n(a\notin D_n)である.作り方から\overline{J_{k(n)}} \subset I_n\cap D_nだったが,a \in [q_{k(n)},r_{k(n)}]=\overline{J_{k(n)}}なので a\in D_nとなり矛盾である □

 ところでなぜこれをカテゴリー定理と呼ぶのかについて調べてみた.まず,内点をもたないような閉集合の可算和(の部分集合)を第一類と呼ぼう.第一類は割とスカスカな感じがするだろう.第一類でない部分集合を第二類と呼ぼう.えらくざっくりな定義ではある.さて,ここで第一類は本当にスカスカだろうかという問題を提起してみよう.『スカスカ=内点を持たない』と考えると『内点をもたない閉集合の可算和は内点を持たないか?』で,同値な主張としては『内点を持つ部分集合は第二類か?』となる.ところで

Fが内点を持たない⇔任意の開区間にはFでない点が存在する
⇔任意の開区間F^Cは交点をもつ⇔F^Cは稠密

なので,内点を持たない閉集合の可算和の補集合は,稠密な開集合の可算積となり,定理4.8からこれが稠密であることから,『\mathbb{R}の内点をもたない閉集合の可算和は内点を持たない』ということがわかるのである.