Awodey『圏論』第4章その2

続きを調べていたが、さほど多くは見つからなかったので4章の練習問題9をちらちらながめていた。実はこれはp.90の下から3行目で言及されていたもので、そのときは例によって原著者のtalkだと思って軽く流していたのだが、練習問題ということならと取り組んでみた...が、いきなり困った。『一つの対象上の自由モノイドの圏』がなんのことやらわからないのである。そこで原文を参考にしようと思ったが...なんと!原著にこの問題が無い! しかし、よくよく調べてみると、2nd edition のerrataに


p. 80, l. 8: insert "on one object" to read: ... this example is in fact the "free monoidal category on one object."
p. 88, last line: Insert a further exercise:
9. Verify that the category $\mathbf{Ord}_\mathrm{fin}$ is indeed the free monoidal category on one object.


とある。すると問題9の訳文も、p.90の下から3行目も『一つの対象上の自由モノイダル圏』でなければならない。しかし、"the free monoidal category on one object"は原著の他の場所のどこにも記述がないし、そもそもモノイダル圏の定義は7章である。なんでこんなところにわざわざ問題9として追加したのか、謎である。まあ、それはそれとして、"the free monoidal category on one object"は"the"が付いていることからわかるように抽象的な構造として一つだけ存在しており、それがまさにOrd_{fin}に同型であるということらしい。ここでの"on one object"とは、"一つのobjectから生成される"という意味である。また、"free"の部分は任意のmonoidal categoryとその任意のobjectを与えると、自然に"the free monoidal category on one object"からそのmonoidal categoryへの関手に拡張できるという意味である。つまりはOrd_{fin}がこのUMPを持っていることを示せばよい。しかし、ここにひとつ問題がある。Ord_{fin}の対象についてはone object(この場合は1)の行き先に\otimesを繰り返し適用することで自然にユニークな対応があるが、Ord_{fin}の対象m,n間の射は、Hom(m,n)のすべてであるから、これらに対応する射を行き先のmonoidal categoryの中に構成しないといけない。うーむと悩んだが、実はmonoidal categoryの定義にある二項積\otimesが関手であることと、Hom(m,n)の元は定義域を制限することでHom(m-1,n)の元とHom(1,n)の元に分解できて、
Hom(m,n)\simeq Hom(m-1,n)\otimes Hom(1,n)
が成立していることから、帰納的にHom(1,n)の行き先が決まればよいということになる。一般的にやるのは面倒そうなので、たとえばHom(1,4)で説明すると、1=\{0\}の0を4=\{0,1,2,3\}の2に写像するf:1\to 4は、4\simeq 2\otimes 1 \otimes 1と考えて、1\simeq 0\otimes 1 \otimes 0\to^f 2\otimes 1 \otimes 1\simeq 4より
f\simeq (0\to 2) \otimes 1_1 \otimes (0\to1)
と分解でき、結局、恒等射と0からの射(それぞれユニーク)の行き先が決まればよいが、これには自然な対応があるため、問題は解け、Ord_{fin}のUMPが確認されたことになる。意外に0\to mという射(単位元0は始対象でもある)が重要な役目をしていると気付かされた。ただし、以上のような分解や再構成が意味を成すためには\simeqと表現したところに何かの自然同型(natural isomorphism)が必要であり、それらはstrictでないモノイダル圏の定義の要請に含まれている(はず)。

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p.90 下から3行目
 誤『対象上の自由モノイドの圏』
 正『一つの対象上の自由モノイダル圏』

p.97 6行目
 誤『すべてのg_i \in Gに対し]』
 正『g_i \in Gであり』

これは誤りというよりは、後の文がg_iに対する条件になっていないのでちょっと気持ち悪いというだけです。ただ、原文ではこの文言は5行目の式にくっついた記述になっています。

p.100 問題9
 誤『一つの対象上の自由モノイドの圏』
 正『一つの対象上の自由モノイダル圏』