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[小ネタ] の逆関数を求める
久々の投稿ではあるが,めっちゃ小ネタである.実は仕事のソフトを書いていてこの問題にぶつかった.の濃度がの濃度に等しいということの証明として,対応を具体的に と与えることができる.という具合にの作る平面を斜めに切るように数える,よく知られたものである.さて,問題はプログラムでループ変数をにして,の方を求める,つまり逆関数が欲しいと思ったのである.ところが意外にもこの対応の逆関数を陽に表した公式が Webで見つからないのである.頼みの綱のstack overflowにも『全単射なんだから逆対応の存在は明らか』みたいなのしかなくて困ったが,一つだけ手がかりとして,『 』というのが見つかった.このヒントは,確かにをにらむと見えては来るが,数値で計算してみると,を切り上げたり切り捨てたりしても合ってはいない.いろいろ試行錯誤の挙句,次のような公式を得た.
ここにはを切り上げて整数化する記号である.
ちょっと試してみよう.
のときで,.切り上げてなので 0.
のときで,.切り上げてなので 1.
のときで,.切り上げてなので 1.
のときで,.切り上げてなので 2.
のときで,.切り上げてなので 2.
のときで,.切り上げてなので 2.
とかなりきわどいもののイケている.もっと先の方を適当にやってみると,
のときで,.切り上げてなので 53-2=51=20+31 とこれも正しい.
がわかると なので逆関数は求まったことになる.
さて,上の公式を証明しよう.
と置く.の切り上げがに等しいということは,であることと同値である.まず,を示す. もし, ならで,
は矛盾である.よって.
同様に なら,.
は矛盾.よって □
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[物理学] Dirac『一般相対性理論』を読んでいた
えーと,興味が抽象的な数学から具体的な数学に移る波の途中であらぬ方向に逸れて一般相対性理論に行ってしまった今日この頃です.これにはちょっと事情があって,実はHawking & Ellis『The large scale structure of space-time』を読もう(これもまた渋いチョイス)というネット勉強会が立ち上がりつつあって,その予習のために自習でDiracを読むという段取りだったわけです.ちなみにDirac『一般相対性理論』は短い(100ページちょいぐらい)ので有名なテキストですが,最初に読む本ではありませんです.とはいえ,テンソル計算の復習はできるので整理には良いのかもしれません.一方,Hawking & Ellisももはや古典で,特異点定理を学ぶのなら今なら Wald 『General Relativity』を読めという情報がネットにありました.まあ,そこは趣味の世界なのでH&Eでもいいかなぁと.
Dirac『一般相対性理論』に戻ると,なんと『ちくま学芸文庫』にも収録されているとのこと(ちくま文芸文庫は収録のチョイスが謎で面白い).また,ネット上でも高橋善樹さんという方が,『ディラック 「一般相対性理論」を読む』というタイトルで丁寧なノートを作っておられるので,もし本書を自分でも読みたいという奇特な方がおられたらぜひ参考にすることをお勧めします.
さて,私が本書を読んでいて二か所でハマったので,そのハマリのご紹介を.
最初は,『19. ブラックホール』である.18のシュヴァルツシルトの解でにある,いわゆる時空地平の特異性を座標変換であたかも何も特異性が無くなってしまうかの如く記述がある.Dirac先生も『特異性は解消である』とか言っているが,(19.1)で作った座標はで独立変数でなくなるため,数学的にはさっぱりである.まあ,ここはDirac先生の勘違いということで自分は納得した.そもそも計量が定義されていない点がある時点で議論に困ると思うのだが...まあ,H&Eではさすがにそういう点は最初から除外されていたはずである.
もう一点は本当にハマったところで,『27. 物質が連続的に分布している場合の作用』である.この中の変分の形を与える式(27.4)の導出が納得いかなかった.先の高橋ノートでもここはそのまま使われていて参考にはできなかった.これの部分が反対称なので自然に連続の方程式 が出るので非常に綺麗な形をしている.それはわかるのだが,Dirac先生の説明はいかにも物理屋な説明である.
自分でも考えてはみたものの,速度場の定義が問題で,これって本当に時空座標の関数になっているのかが疑わしい(軌道上でしか定義されていないと思う).結局『25.物質のエネルギー・運動量テンソル』節での説明がよくわからない(固有時間は軌道を決めないと決まらない).ネット情報に救いを求めてみたのだが結構手強かった.
しかし,数日の調査の結果ついにヒントを見つけましたよ.StackExchangeありがとう.『How to derive equation 27.4 in Dirac's "General Theory of Relativity" book?』というそのままの質問(ググってもなぜか直接出てこないが,ヒットした質問の関連質問というところに載っている)で解答には,単一の質点の運動に対してだが正確な記述があった.それによると速度場は時空座標の関数ではなく,時空座標に関連するのは質量分布の部分だけである.
では質量が連続分布しているときはどないなんねんと思うが,速度場と言っているものが軌道依存であるので,軌道の連続分布というようなものを考えないといけないのだろうか? いや待て待て,なんやわからんが 速度場 なるものが最初から与えられているとしたら,点を通る軌道はかつなる積分曲線であるはずである.ここには単なるパラメータであるが,であったから,実はは固有時間に一致している.4次元時空のある三次元空間断面(その点をでパラメタライズすると考える)をでの始点の全体と考え,軌道をと書いて,
と拡張してみてはどうだろうか.描像としては,初期点にあった密度の物質が軌道に沿ってそのまま流れていく感じである.物質場としての疎密はを通じて,その点に近い軌道の疎密×その軌道上の密度の積分で表現されている.に依存性を含めていないため,先の質点の例と同じように連続の方程式 を満たしている.変位の場をとして,軌道の変位をと定義すれば(ただし,初期点での変位は0 すなわち は要求しておこう)あとの計算はStackExchangeと同じようなもので,が出る.
しかし,この変位で軌道の微分方程式は,
に変わっている.この右辺の長さはでない限り1ではない.なので変位後は左辺は速度場ではなくなっており,または固有時間という意味を失ってしまっている...気持ち悪っ!
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[集合論] Real Numbers その4(Jech本4章 p.42)
4章本編の最後に取り上げるのは,Baire空間である.Baire空間 は,記述集合論の道具の一つで無理数全体の集合と位相同型(ここで無理数全体にはからの相対位相を入れている)で,記述集合論では実直線と同一視されるものらしい.記述集合論についてはJech本では本格的には扱っていないようだが,『公理的集合論のモデルはいろいろありすぎて困るので解析学に関係ありそうなものに絞ってみても結構深い』というような分野であると想像している.さて,Baire空間 に位相を入れるのに,次の部分集合を開基にして位相を定義する.
任意の自然数の有限列に対して,
これはに離散位相を入れたときに,無限積に入れる位相としてよくある直積位相というやつになっている.ちなみにテキストにはは閉集合にもなっているというコメントがあるが, ここにはなる有限列,だからである.さて,は正と負に分けるととなるが,負の時 ,正の時で写像すると無理数であることを保ちながらそれぞれとの中の無理数の集合に位相同型に写像される.このことから結局 の無理数全体と開区間の無理数全体は位相同型であることがわかる.そこで からの無理数全体への写像を次のように連分数を使って定義する:
ちなみにJech本でははを含むので上のようにを足してある.本文ではひっそりとpositive integerと言っていたりするが,そこはBaire空間の定義とずれがあるので気持ちは悪い(もちろん位相同型にはちがいないが).
さて,自然数の無限列に対して右辺は収束するのでその極限値を像とするのであるが,の任意の元に対してその連分数展開を作れば展開は無限に続くので左辺の元になっていることがわかる.逆に像が有理数になることはない(∵連分数展開が有限回で止まってしまうため矛盾する).要するには全単射である.さらに位相同型になっていることは,に対して をのを外してから以下続けた自然数列としたときに,なので,.ここでもし なら右辺の絶対値記号の中はなのでになることができない.そこでもし左辺が十分小さくとれるなら でなければならないことになる.その場合に今度は を同じように評価すれば となり,以下左辺を十分小さくとれるならいくらでも大きなに対してが成立するようにできる.逆に,なら (ここで 等々)で,なので,右辺の積の部分が のオーダで小さくなっていくことがわかるため,を大きくすると左辺はいくらでも小さくできる.以上からもその逆写像も連続であることがわかり,Baire空間とが位相同型であることが証明された.
テキストのコメントではBaire空間を記述集合論では実直線と同一視するそうだが,そのありがたみは現時点ではよくわからない.とが似た性質があるという一つの根拠は定理4.6(Cantor-Bendixsonの定理)と定理4.8(Baireのカテゴリー定理)が成立するとのこと.証明は の代わりにすべての開基の集合を使えばよさそうだ.後者は列の長さをとすると列の全体の濃度はなので結局 で可算集合である.に対するCantor-Bendixsonの定理の証明は本節の最後にある.
さて,Baire空間とが類似品というような話をする一方で,の部分集合が完全集合であるための必要十分条件を以下の木(tree)の概念を使って定式化する Lemma 4.11が結局,本節のミソであるようだ.には直接的には木を定義するような自然な構造がないので,そこがとの差異と言えば差異だろうか.
を全ての自然数の有限列の集合として,について,
と定義する.また,のを通る無限の経路という部分集合を
と定義する.は閉集合になるのは,なら,だが,このときを含む開集合の元はすべての元ではないからである.
逆にをの閉集合として,
と定義するとは木であり,(∵木であること,は定義から自明である.逆向きはならで,の定義から,ごとに.ところがもし,だとするとが閉集合だったから,となるが,これはの長さをとすると,なるような が存在しないといっており,先の条件に矛盾する).ところで蛇足であるが,であろうか? 定義からは明らか.しかし,この逆向きの包含関係は成立しない.例としてはつまらないが は木だが, (∵ には無限列しかない)..
さて,の完全集合を木の言葉で定式化するために次の定義を行う.
空でない木に対して:
この定義は要するに,任意のに対して,有限列から先を伸ばしたがあって,かつその2つは先のどこかで異なっているというものが存在するということである.まず完全でない例としては に対して,がある.この例だと常にだからである.簡単な完全な木の例は,既出のに対するがある(は閉集合でもあることに注意).これが完全な木であるのはがの後は勝手な列が取れることから明らかである.これらの例はそれぞれ,の孤立点(一点)と閉区間に対応しているような感じである.
以上の準備のもと,Lemma4.11のステートメントは非常にシンプルである.
Lemma 4.11
閉集合に対して:
テキストに証明はついていないが,ほぼ定義の言い換えのようなものである.
<証明>
であるが,右辺の全称記号の順番を入れ替えてみると有限列を伸ばした異なる無限列が存在するのでそれらを適当に有限で切ればが完全の条件と一致する.逆に任意のに対して,を有限で切ったものをとすればが完全である条件は,の中にと異なるの元が存在する(∵のどちらかはとは異なるを有限で切ったものになっている)という主張であり,すなわちはの孤立点ではない □
に対して,
と定義すると,はが完全であることの定義に一致している.また,次にを考えたいわけだが,定義からが木である(∵でならば なので)ことを注意しておく.
さて,が高々可算集合であることを証明する.とすると任意のに対して,であるが,一方]であるからどこかのででなければならないので,そうなるような最小のに対して,と定義する.である.が可算集合だったのでこの対応がone-to-oneであることを示せれば十分である.で,とするとどこかので,となるが,このような最小のものを改めてとしておこう.もし,ならばがあって,なので,でなければならない.しかし,とするとかつで,とはcompatibleでないので,だが,これはの定義に反している.よってはone-to-oneである □
以上の準備の上で,例によって
(が極限順序数のとき)
と定義する.は非増加であるが,もともとなのでは高々可算集合である.もし,であるとが集合になるという矛盾が出るといういつもの論法で,なる順序数が存在する.また,に対して,の最小元を対応させることができるので,なるone-to-oneが存在する.よって. そこでテキストの通りに となる(とは限らない).なので,空でなければは完全である.
ここで補題として,を示そう.
□
最後に を示す.なので 左辺 ⊃ 右辺.逆に左辺の元をとすると,なる最小のが存在する.もし,が後続順序数なら,として,なのでは右辺に属する.もし,が極限順序数ならば,で補題より . ところが,の最小性から なので矛盾.つまりこのケースは実は起こらない.□
さて,の右辺は,高々可算集合の高々可算集合個の和であるので,高々可算集合である.をの非加算な閉集合とするとと書けるので,先の等式は,が完全集合と高々可算集合の和に分解されるというCantor-Bendixsonの定理のバージョンである.
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[集合論] Real Numbers その3(Jech本4章 p.40)
今回のネタは定理4.6 (Cantor-Bendixson)『実数の中の任意の非加算な閉集合は,完全集合と高々可算な集合の和集合となる().]』である.系として,定理4.5と組み合わせると『をの閉集合とすると,は高々可算か,』が得られる.この系は閉集合に限るなら連続体仮説が成立していると言っている.さて,独自調査により Cantor-Bendixsonの定理は選択公理を使わなくても証明できるらしいので,テキストの証明をこの観点から眺めてみよう.ところで蛇足ながら,CantorはCantor-Bendixsonの定理を証明しようとして,超限帰納法(超限順序数)をあみ出したそうである(1880年代).先の系にも連続体仮説との関連がうっすら見えるように,Cantorは生涯にわたり連続体仮説の証明に腐心していたらしく,その証明がうまくできないことと集合論の基礎をめぐってのKroneckerの執拗な攻撃により精神を病んでいったとWikiにある.ちなみにKroneckerはLindemannのπが超越数である証明(1882年)を『美しいが無意味.なぜなら超越数は存在していないから』と言ったそうである.真意はもちろん知らないが,『πが代数方程式を満たさない』ことは認めるが,かといって『代数方程式を満たさない数としての超越数』という概念そのものの構成を否定しているのだと思う(直観主義の人だから,補集合を取る操作だけでも考えている世界からはみ出てしまうかもしれないのである).
<定理4.6の証明>
limit point の定義は『の点がlimit point を含む任意の開集合が以外のの点を含む 』である.以前の記事で述べたように点列での定義は不採用である.記号 でに含まれるすべてのlimit pointの集合を表す.このはから論理式で表現できるため,すべての位相空間のクラスからそれ自身への関数クラスが定義されていると考えてよい.すると次のような超限再帰的な定義が可能である.
; が0でない極限順序数のとき
しかもは非増加である.出来上がったものは順序数全体のクラスからのベキ集合への関数クラスとなる.これは超限再帰的な定義なのであって集合を単に列挙しているわけでもないので選択公理の出番はない.
さて,以前にもあった論法だが,もしすべてのについて,が成立すると,からへの単射となっている.この逆関数の関数クラスを作る(像でないところは0にするとか適当でよい)と集合からへの全射が得られるが,置換公理よりが集合でなければならないが,これは矛盾である.そこで なるような最小なが存在することになる.このとき,とする.なので,もしが空でないなら,完全集合である.が空であろうがなかろうが,が高々可算集合であることを示そう.
その準備として,両端が有理数であるようなの開区間の全ての集合を考えてそれら可算集合でインデックス付けしたものをとしよう.これは有理数がでインデックス付けできるので,両端を考えるとへの単射が存在するが,なので一つのでインデックス付けできる理屈である(途中飛ばして番号を付けなおす必要はある).特に整列集合であるところがミソで,一般的に『XXXの条件を満たす開集合を選ぶ』という選択公理にひっかかるステートメントを『XXXの条件を満たす開集合の内,の最小なものを選ぶ』とすることで選択公理の使用を避けるという工夫ができるのである.ただ,本証明ではストレートにらを使うので,そういった工夫はせずとも選択公理は不要となっている.
さて,を示そう.より なので より 左辺 右辺はOK.として,なる最小の順序数を改めてとする.が後続順序数でならの最小性からかつ . が極限順序数なら 定義よりだが,の最小性から なのでとなり,矛盾してしまう.よってこのケースは実際にはなく,与式は証明された.ちなみにならばなので となり,右辺はdisjoint unionになっている.それゆえとするとなるはユニークに決まり,かつ はの孤立点であることになる.そこでのなかからを含みかつそれ以外のの点を含まないようなものでが最小のものが存在するので,そのようなをと書く.あとはこの対応がone-to-oneであることが示されれば,が高々可算であることがわかるので定理の証明は完了である.でとしよう.なるがユニークに存在するが,と仮定しても一般性を失わない.このときなのでの決め方から以外の元を含まないため,. なので である □
ついでに定理4.8の証明も補足しておく.これも選択公理を使わない証明となっているが,よくある証明では長さが縮小していく区間を使うがJech本はちょっと違う証明となっている.
定理4.8(Baireのカテゴリー定理) をの稠密な開集合の可算列とする.このとき も稠密である.
<証明>
稠密であることを示すには任意の空でない開区間とが交わることを示せばよい.そこで次のような開区間の減少列を作ってみる:
は,なるような (既出!)の元の中でが最小のものをと書いて,そのままとする.ちなみにこのようなが一つでも存在することはがが稠密であることから空ではない開集合なので適当な開区間が含まれるがそれを少し縮めて端点が有理数になるようにすれば条件を満たすの元になるからである.
ところでなぜこれをカテゴリー定理と呼ぶのかについて調べてみた.まず,内点をもたないような閉集合の可算和(の部分集合)を第一類と呼ぼう.第一類は割とスカスカな感じがするだろう.第一類でない部分集合を第二類と呼ぼう.えらくざっくりな定義ではある.さて,ここで第一類は本当にスカスカだろうかという問題を提起してみよう.『スカスカ=内点を持たない』と考えると『内点をもたない閉集合の可算和は内点を持たないか?』で,同値な主張としては『内点を持つ部分集合は第二類か?』となる.ところで
⇔任意の開区間とは交点をもつ⇔は稠密
なので,内点を持たない閉集合の可算和の補集合は,稠密な開集合の可算積となり,定理4.8からこれが稠密であることから,『の内点をもたない閉集合の可算和は内点を持たない』ということがわかるのである.
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[集合論] Real Numbers その2(Jech本4章 p.40)
今回のネタは定理4.5『実数の中の任意の完全集合の濃度は』である.完全集合とは,孤立点を持たない閉集合のことで,孤立点をもたないとは『任意の点のどんな開近傍もその点以外の点を含む』ことである.これと同値な定義としては,『任意の点に対して,その点に収束する点列でその点以外の点からなるものが存在する』というのがあるが,実はこの同値の証明(『開近傍』⇒『収束点列』の方向)には選択公理が必要なことが知られている.後の話の展開の都合でここでは『開近傍』での定義を孤立点をもたないという定義として採用する.
<定理4.5の証明(よくあるバージョン)>
完全集合をとする.を区間で区切っていくと,そのどれかには区間の内点にの点を含む区間がある(そうでないと区間の端点がの孤立点になるから)のでそれをとする.ちなみにらは完全集合でないことがあることに注意.たとえば区間は完全集合だが,は完全集合ではない.区間の端点が孤立点になってしまうことがあるからである.の端点がの孤立ならを少し縮めてが完全集合とできる.
が有界ならその上限と下限が存在し,どちらもの点である(∵が閉集合だから).さて,はの孤立点ではないので,のそれぞれを中心としたより小さい半径の開区間を考えれば,なるようなが存在することがわかる.
そこで交わらない2つの閉区間を,と定義する.ただし,先に述べたのと同じ理由でがの孤立点になることがあるので,そういった場合はすこしを小さくとりなおせば,が完全集合とできる.についても同様である.このときの長さはより小さい.,はのいくらでも近くにの点があるのでそれぞれの区間の内点にの点が存在する.以下この区間の分割作業を続けていくと,[0,1]からなる長さの任意の有限列に対して,
(ii) の長さ (上の構成では実際は)
(iii) かつ (は列の後ろにを追加した列,等である)
さて,に対して,の点 を対応させることで,単射 が構成できるので と結論が得られる.
少し戻って,が空でないことを証明しよう(空でなければ一点のみを含むことは区間の長さがいくらでも小さくなるので容易).なら .これはすなわち となり,右辺は左辺の開被覆になっている.ところで左辺は有界閉集合であったからコンパクト.ゆえに右辺から有限開被覆が選べるがその中で一番大きなに対して,となるので矛盾である□
とまあ,証明はできるのだがひとつ気にいらないことがある.それはこの証明ではどう見ても『選択公理を使っている』ことである.しかし,Jech本では言及していないが,調べてみると定理4.5は選択公理を仮定しなくても証明できるらしいのである.を定義するには選択公理は不要なので,定理4.5の証明に選択公理がいるかいらないかはそれなりの意味がある.上の証明で,選択公理を使っていそうなアヤシイところを検討してみよう.要は有限のところでのの存在はよいのだが,という対応が列挙なので(集合として)関数になっている保証がないのである.この対応が関数でなければその共通集合は作れない.
① の存在は問題ない.
② の上限と下限の存在はの性質なので問題ない.
③ の選び出し部分はNGである.『存在するので一つ取ってくる』を論理式で書けるような規定にしなければならない.証明を少し修正して,ぴったりの長さの閉区間 を考えよう.もし右の端点がの元であってかつの孤立点でないならとしよう.右の端点がの元であってもの孤立点だったり,の点でないときはの最大元をと定める.同様の方法でも定める.この定義ではがユニークに決まってしまう(かつ定義を論理式で書ける)ので以下の繰り返しのステップでこの手法を使えば,選択公理は不要となる.
④ の有界閉集合はコンパクト.いわゆるハイネ・ボレルの定理である.この定理の証明に選択公理が不要だというのは私は今回調べてみて初めて認識した.この定理の背理法での証明のプロセスを少し復習してみる.ある開被覆 が存在してこれからどんな有限個を選んでもを被覆できないとする:
(ii) この閉区間で区切られたのどれかは,元と同じように開被覆 からどんな有限個を選んでも被覆できないという性質を持っている(∵そうでないなら各々の有限開被覆を全部集めればの有限開被覆ができてしまう).
(iii) の代わりに(ii)の非コンパクトである集合を選んで,を一つ増やして (i)のステップに戻る.が,ここで勝手なものを選ぶのではなく,(ii)の非コンパクトな性質をもつ閉区間のうち,一番左にあるものを選ぶと決めると選択公理の使用を避けることができる.
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[集合論] Real Numbers その1(Jech本4章 p.37)
さて,まずは定理4.1『実数の濃度は可算ではない』である.本書の証明は私は初めてみるきれいな形だったので感動した. よくある証明は『区間の実数を小数展開して対角線論法で矛盾を導く』というものではなかろうか.しかし,この十進でも二進でもいいが『小数展開』できるという部分はなんだか気持ち悪くないだろうか? この主張は実際のところ
と言ってしまっているのである.ベキ集合は元の集合より濃度が大きい: は既出だが,先のよくある対角線論法は単に後半のこの事実を証明しているにすぎない.すると実数プロパーな部分は前半のが全てなのであって,これはなんだか論点先取ではなかろうか.
Jech本の定理4.1の証明はそれではない.実数の2つの性質
(ii) 有界な実数の集合はその上限を実数の中に持つ.
さて,とわいえ例によってJech先生は証明の最後のところを読者に放り投げているので,それを補完した形で紹介する.
<定理4.1の証明>
実数 が可算だと仮定して,その可算列をとしよう.以下この列から次のように再帰的に数列 を定義する:
・,; ここには,
・; ここには,
・; ここには.
結局から のような数列ができることになる.
さて,らは有界なので が存在するが,このはのどれとも一致しないので矛盾であるというのである.この部分を補足する.仮に となったとしてみる.の定義から であるが,この等号は実は成立せず(∵ 成立するととなるため の定義に反する).一方で,同じく上限の定義からだがここでも等号は成立しない(∵ 成立するととなってしまう).よって常に が成立している.ところがは なるような最小のと決めたが,すでにがあるのででなければならないため,この操作が高々有限回で止まってしまうので矛盾である □
さて,の証明も念のため.
を示す: にを対応させるとこれはのにおける稠密性より単射である.が可算無限であることを認めると, □
を示す: はCantor set と呼ばれる集合を含んでいる.具体的には で と表される実数である.Cantor setの構成は認めるとして,作りかたから.なので □
N進小数展開を使うよりずっと見通しがいい感じである(個人の感想です).
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[集合論] Jech本三章章末問題その2(Jech本p.34-35)
後半戦はDedekind有限性に関してだが,あまり面白い問題はなかったのでまとめ風にしてみた.まず定義:
集合がDedekind有限
に対して,上へのone-to-one写像 が存在しない.
集合がDedekind無限
に対して,上へのone-to-one写像 が存在する.
ある集合の真部分集合に対して,元の集合と一対一対応があるという直観的に正しそうな無限の定義である.Jech本での有限順序数へone-to-one写像が存在しないという(Dedekindと断らない)無限性の定義との関係を以前から知りたいと思っていたが今回の章末問題で解消できた.
まず,『有限 ⇒ Dedekind有限』(対偶は『Dedekind無限 ⇒ 無限』)である(∵証明は普通の数学的帰納法を使えばよい).この逆,『Dedekind有限 ⇒ 有限』あるいは『無限 ⇒ Dedekind無限』はどうかというと,選択公理を仮定するとこれは正しい(証明はすぐ後で).というわけで選択公理があると,Dedekindの有限・無限性は本書の有限・無限性と一致してしまう.一方,選択公理がないとこの逆向きは証明できないとのコメントがある.
<(AC)『無限 ⇒ Dedekind無限』の証明>
選択公理を仮定すると任意の集合は整列可能で,ある基数が存在して,. が無限なら で特に なので,は可算無限集合を含む.この可算無限集合に対しては一つずつずらし,それ以外は同じ要素を対応させる写像はからに対応する元を除いた真部分集合への上へのone-to-one写像になっている(問題3.14の左向き).つまり,はDedekind無限である □
実際のところ,選択公理を仮定せずに 『:Dedekind無限 ⇔ が可算無限部分集合を含む』(問題3.14)となっている.この右辺の『が可算無限部分集合を含む』については以前にネタに取り上げたことがあるが,
(https://kazu-fgf.hatenablog.com/entry/2022/08/04/011920)
選択公理を仮定しない場合に無限集合なのに可算無限部分集合が存在しないという奇妙なことが起こるというのを覚えておられるだろうか? それはまさに『無限 ⇒ Dedekind無限』の反例になっているというわけである.
右向き(⇒)については,テキストのヒント通り,Dedekind無限の定義を与える上へのone-to-one写像 を使って,から始めて,と作ればよい.以前のネタでも指摘したように,この無限操作には問題は無く,写像があれば可算無限部分集合は再帰的に定義可能なのである.
さて,選択公理を仮定しないときにはこの2つの有限・無限性の定義は異なることが分かったとして,その優劣はあるだろうか? そもそも優劣を決める基準などは無いが,有限集合から構成されたいろいろな集合が再び有限集合であるかどうかという基準を採用してみよう.つまり集合を作り出す操作で閉じているかどうかである.
<問題3.15>
(ii) Dedekind有限ならば, の値の重ならない有限列の全ての集合も Dedekind有限
(iii) 互いに素な Dedekind有限集合のDedekind有限個の族の和集合も Dedekind有限
<解> 問題3.14のDedekind無限と同値な条件『可算無限部分集合を含む』を使えば大体解決する.
(i)はできたものが可算無限集合を含むとすると,またはがそうなるので矛盾する.
(ii)は異なる有限列が可算無限個あるとしよう.それらの有限列からを順に今まで選んでこなかった元を選んでいく.ある有限列でいままで選んだ元しかないときはスキップして次の有限列に行く.この再帰的な作業が止まらなければ,の可算無限部分集合が作れるので矛盾.もし途中で番目以降で元が増えなくなったとすると,すでに集めた個の元からなる値の重ならない有限列は有限個しかないので可算無限列は途切れるはずなので矛盾である.
(iii)は和集合が可算無限集合を含むとする.族は互いに素なので可算無限集合の元それぞれにそれが属する族のインデックスが対応付けできる.ところがインデックスはDedekind有限なので,すくなくともどれか一つのインデックスに対して,可算無限回この対応が被ることになる.しかし,このことはそのインデックスに対応するDedekind有限集合が可算無限部分集合を含むことになるので矛盾である □
その直後のテキストのコメントによると,projection, ベキ集合,Dedekind有限集合の部分有限集合全体,そして (互いに素を仮定しない)Dedekind有限集合のDedekind有限個の族の和集合 はDedekind有限集合になることが選択公理なしでは証明できないとのことで,Dedekind有限集合の概念は単純な集合演算に対しても閉じていないということになる.テキストでの有限集合の定義ではこれらはすべてふたたび有限集合なので,こちらに軍配が...とはいえ有限順序数がガチガチに構成されている(ので数学的納法が使える)のが効いているでなんとも.
さて最後の問題:
<問題3.16> が無限集合なら,はDedekind無限集合
この問題が興味深いのは,『Dedekind無限 ⇒ 無限』なので,がDedekind無限集合のとき,はDedekind無限集合にならないことがあると先に述べたが,は再びDedekind無限集合になるということを含意している.
<証明> ヒントにより を考えてみる.カッコの内側はを固定するとの元(かつが無限集合なので空ではない)なので,はの可算無限部分集合を定義している.よってはDedekind無限集合 □