[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その10

 §50の問題を見ていこう。いやはや、GWで時間があると思うと逆に勉強しなくなりますな。

[問題1] J=[a,r+\omega]を原始イデアルの標準基底での表示、a=p_1^{k_1}p_2^{k_2}\cdots素因数分解とすると、次は素イデアル分解となる。

J=P_1^{k_1}P_2^{k_2}\cdots. ここにP_i:=[p_i,r+\omega]

 証明はテキストの通りだが、N(P_i)=p_iでノルムが素数イデアルは自動的に極大イデアルとなるので、上式が素イデアル分解を与えている。元が原始イデアルなのでここで現れる素数p_iは、分岐か完全分解の素数に限る。

[問題2]原始イデアル J_1=[a_1,r+\omega], J_2=[a_2,s+\omega]において (a_1,a_2)=1 であるとき、J_1 J_2 = [a_1 a_2, t+\omega]. ただし、t合同式 t\equiv r \pmod{a_1},\ t\equiv s \pmod{a_2}から求められる。

 中国剰余定理によりtが求められ、かつ \pmod{a_1 a_2}でどの解も合同なので結果はtの選び方には依らない。tを使うと J_1=[a_1,t+\omega], J_2=[a_2,t+\omega]と書けるが、このとき a_1 \mid N(t+\omega),\ a_2 \mid N(t+\omega)が成立し、a_1,a_2が互いに素なので a_1 a_2 \mid N(t+\omega). これはJ:=[a_1 a_2, t+\omega]が標準的基底になっていることを示しており、Jは原始イデアルとなる。問題1を使えば、J=J_1 J_2.

[問題3] J_1=[a_1,r+\omega], J_2=[a_2,s+\omega]において (a_1,a_2)=d > 1 であるとき、J_1 J_2 の標準的基底を求めること.

 問題2の拡張である。問題3が解けると任意の原始イデアルの積が計算できるようになる。テキストの証明はいつの間にか文字が小さくなってごちゃっとしている上に記号が紛らわしいし、場合分けが見にくかったり、途中で問題4が乱入するというカオスを呈しているので、再構成を試みる。

 問題1より、a_i=\prod_p p^{k_{p,i}}素因数分解すると、

J_1=\prod_p {P_r}^{k_{p,1}}. ここにP_r:=[p,r+\omega]
J_2=\prod_p {P_s}^{k_{p,2}}. ここにP_s:=[p,s+\omega]

 互に素な場合は問題2により解かれているので、p \mid dなる素数の場合だけがJ_1 J_2の積での計算で解決すべき部分である。
 ところでP_r,P_sともに(p)を含む真に大きな自明でないイデアルなので分解(p)=PP'での極大イデアルP,P'のどちらかに一致する(分岐のときはどっちでも同じ)。P_r=P_sの時はPP'に一致しているが、pが分岐の時は積が2つごとに(p)に戻るため、容易。pが完全分解のときはこれはすなわち[問題4]である。P_r\neq P_sの時はpが完全分解のときしか起こりえないが、P,P'がペアになると(p)に戻るため、J_1 J_2において、P_r,P_sのベキが打ち消しあうことになる。残るのはPP'のベキなので結局、[問題4]に還元される。

計算を進めるために次の補題を用意する。

p \mid dのとき、 k = min(k_{p,1},k_{p,2})として、

P_r=P_s \Rightarrow r\equiv s \pmod{p^k}

<証明>
J_1,\ J_2 \subset {P_r}^kなので特に r+\omega,\ s+\omega \subset {P_r}^k. よって  r-s=(r+\omega)-(s+\omega) \in {P_r}^kとなるが、[問題1]から{P_r}^k=[p^k,r+\omega]は標準的基底なので、その性質から p^k \mid r-s

 さて、ここで次の2つの場合に分ける。
ア)r \not\equiv s \pmod{p^k}のとき:
 このとき上の補題の対偶により、P_r \neq P_sであるので、J_1 J_2=(p)^k [a_1/p^k,r+\omega][a_2/p^k,s+\omega] と計算が進む。このとき最大公約数(a_1/p^k,a_2/p^k)にはpが含まれなくなっている。

イ)r \equiv s \pmod{p^k}のとき:
この場合はpは放置しておいて、次のdの素因数を考慮する。

この操作をすべてのdの素因数について行うと、最終的に改めてJ_1=[a_1,r+\omega], J_2=[a_2,s+\omega]において (a_1,a_2)=dとしたとき、任意のdの素因数pに対して、r \equiv s \pmod{p^k}が成り立つようにできる。よって、特にr \equiv s \pmod{d}である。
 ここ至って、t\equiv r \pmod{a_1}, t\equiv s \pmod{a_2}の有理整数解tが存在する(p.33 [問題1] )ので、

J_1=[a_1,r+\omega]=[a_1,t+\omega]
J_2=[a_2,s+\omega]=[a_2,t+\omega]

と書き直すことができて、a_1 \mid N(t+\omega),\ a_2 \mid N(t+\omega)より
a_1 a_2 /d \mid N(t+\omega). 再び[問題1]より、
J_1 J_2=[a_1 a_2 /d, t+\omega] [d, t+\omega].

[a_1 a_2 /d, t+\omega]には、[p,t+\omega]のちょうどmax(k_{p,1},k_{p,2})乗のベキが含まれ、[d, t+\omega]には[p,t+\omega]のちょうどk乗のベキが含まれる。よって、J_1 J_2には[p,t+\omega]のちょうど{k_{p,1}+k_{p,2}}乗のべきが含まれる。そしてこの計算は[問題4]が必要となる。


[問題4] (p)=PP',\ P\neq P' であるとき、Pの任意のベキ P^nの標準的基底を求めること。

 なぜ、テキストの証明の手続きが必要かというと P=[p,t+\omega]だとして、P^k=[p^k,t+\omega]になってそうだがそうはいかない([問題1]の逆は成立しない)。後者が標準的基底であるためには、p^k \mid N(t+\omega)である必要があるが、p \mid N(t+\omega)しか保証されていないからである。


さて、3節ではイデアルすべて単項イデアルの場合(h=1)の例を見ている。h=1かどうかはp.303でいくつかのmではわかっている。あとはどの素数が完全分解か分岐か惰性かを判定できればよい(p.292)。

[例1] x^2+y^2=n
m=-1m \equiv 3 \pmod{4}なので d=-4. (\frac{-4}{p})=(\frac{-1}{p})=(-1)^{\frac{p-1}{2}}なので分解の判断は容易。2だけが分岐する。原始解であるのは イデアル(x+iy)が原始イデアルであることなのでテキストの通りである。

[例2] x^2+2y^2=n
m=-2m \equiv 2 \pmod{4}なので d=-8. (\frac{-8}{p})=(\frac{-2}{p})=(\frac{-1}{p})(\frac{2}{p})=(-1)^\frac{p-1}{2}(-1)^\frac{p^2-1}{8}. 2だけが分岐する。

[例3] x^2-2y^2=n
m=2m \equiv 2 \pmod{4}なので d=8. (\frac{8}{p})=(\frac{2}{p})=(-1)^\frac{p^2-1}{8}. 2だけが分岐する。\epsilon:=1+\sqrt{2}N(\epsilon)=-1なので単数だが、\sqrt{2}の連分数近似の最初にその共役 1-\sqrt{2}が表れて、基本単数であることが確認できる(そもそも係数がこれ以上簡単になれないという理屈でもよい)。
 n=p=17の場合、p\equiv 1 \pmod{8}なので、(\frac{2}{17})=1だが、その具体的な解は、6^2=36\equiv 2 \pmod{17}で与えられる。素イデアルを求める計算(p.289)より直ちにP=[17,6+\sqrt{2}]. ところがこれは単項イデアルになるはず。一般論は次にやるらしいが、テキストに従うとP=(1+3\sqrt{2}). x=1,\ y=3x^2-2y^2=-17の解を与えるので、\epsilonを掛けることで、(1+3\sqrt{2})(1+\sqrt{2})=7+4\sqrt{2}から x=7,\ y=4x^2-2y^2=17の解を与える。

[例4] x^2-3y^2=n
m=3m \equiv 3 \pmod{4}なので d=12. (\frac{12}{p})=(\frac{3}{p})=(\frac{p}{3})(-1)^\frac{p-1}{2}. \pmod{12}で考えて、p\equiv 1,5,7,11 \pmod{12}の4通りで、それぞれ (\frac{3}{p})=1,-1,-1,1.


 最後に、[例4]のK(\sqrt{3})の時にh=1であることはテキストでは確かめられていなかったので、念のため p.303に従って確認してみる。

A=[a,r+\sqrt{3}]としたとき、

K(\sqrt{3})\ :d=12,\ a\le {\frac{\sqrt{12}}{2}}\fallingdotseq 1.73

なので、a=1,\ r=0しかない。よってh=1.