位数60の単純群 その2
位数60の群に対して,『が単純 』の後半部分を示す.
5-Sylow部分群は6個あり,5-Sylow部分群の集合にはGの内部自己同形による置換が引き起こされるため、準同形 が定義できるが,の単純性よりこれは単射となっている。また,前回でも使った論法だが,置換の奇偶示す準同形 との合成が全射になると,指数2の正規部分群が存在することになりの単純性に反するため、. 後はの指数6の部分群がどうなっているかを調べることになる.これについては次の命題が成立する.
命題2
の指数の部分群はと同型
<命題2の証明>
指数の部分群をとする.による右剰余類は個存在し,それらへのの左作用により置換が引き起こされるため,準同型が定まる.の単純性より,これは単射でかつの中への写像(再び置換の奇偶による)であるが,位数の比較によりは同型となる.
さて,右剰余類を固定するの部分群を考えるとこれは自然にと同型となる(この固定部分群をと記述する).一方で,であり,位数を比較すれば. 証明終わり.
命題2より,直ちに位数60の単純群はすべてに同型であることがわかる.
ただし,5-Sylow部分群への共役作用は推移的なので,埋め込みは,一点を固定するというような canonicalな埋め込みとは異なっている.
また,の2-Sylow部分群を考察すると命題2を使わない別証が得られる.まず,3-Sylow部分群の数は,1,4, 10のいずれかになるが,1はの単純性に反するし,4であると,上と同様の議論で への埋め込みが得られるが,位数を比較すればこれもありえない.よってとなる.ここまでの議論から,位数5の元は,位数3の元は存在し,残りの元の数はとなっている.次に2-Sylow部分群の数は,1,3,5,15の可能性があり,1,3は同様に矛盾する.と仮定する.このとき2-Sylow部分群がであるとするとひとつの2-Sylow部分群には2つの位数4の元があり,他の2-Sylow部分群とは共有できないため,30個の位数4の元が存在することになるが,これは残りの元の数16と矛盾する.したがって,2-Sylow部分群はの形である.この場合ひとつの2-Sylow部分群には位数2の元が3つ存在する.これらの位数2の元のうち,もっとも多くの2-Sylow部分群に含まれている元を選び,その重複数をとする.少なくともでなければ,15個の2-Sylow部分群を作るだけの数の元がない.の中心化群を考えるとその位数は以上で,また2-Sylow部分群のひとつを含むため4の倍数でなければならない.この条件での位数60の約数であるものは12,20,60しかない.60はがの中心となるため,単純性に矛盾.20は指数3であり,の右剰余類に対するの左作用から,埋め込みが生じて矛盾.12は指数5であり,同様に埋め込みが定義され,これは結局,同型 を誘導するが,の2-Sylow部分群は実際には5個であるため,結局の仮定と矛盾する.結局 となり,2-Sylow部分群の集合に対する共役作用により,今度はきっちり5個のオブジェクトの置換としての同型 が得られることになる.
念のため,上の証明中に使用した,『の2-Sylow部分群は5個』という事実を証明しておく.まず4次の巡回置換は奇置換なのでの中に存在せず,互換と組み合わせようにも5個しかオブジェクトがないためこれもできないので,位数4の元は存在しない.位数2の元は2つの互換の組み合わせの形しかない.たとえば(12)(34)である.
簡単な計算で、が実際に2-Sylow部分群であることが確かめられる.これを(12345)で変換していけば、
が得られるが,これらは単位元以外の共通元をもたず,15個しか存在しえない位数2の元を尽くしている.
一方,(123)で変換するとが不変であることがわかり,であるが、はを含むため、その位数は3と4の倍数であることになる.これが可能なのはしかありえないが,は今見たとおりなので,となり,2-Sylow部分群の数は5ということになる.