位数60の単純群 その1
前にBurnsideが著作のなかで位数60の群の分類はいい演習になると書いていることを紹介したが,私が探した範囲では,完全な記述はRed cat氏の論文以外には見たことがない.再度ここに紹介しておく."位数120までの群の分類"
さて,位数60の群は全部で13ある.この中で単純群であるものは,5次の交代群のみである.実はこれが非可換単純群で最小位数のものとなっている.それ以外は自明でない正規部分群を持つわけであるが,実は次の命題が成立しており,正規部分群としてを持っている.
命題1
を位数60の群とする.このとき,
が単純でない の5-Sylow部分群が正規部分群
左向きの矢印は自明であるが,右向きは証明が必要である.
Sylowの定理から5-Sylow部分群の数は1か6しかありえないので,『が単純 』という形の上と同値な命題を群論の演習問題としてよく見かける.
さて,という正規部分群が存在すると,その指数である12は5と素であるため,Schur-Zassenhausの定理より完全系列は分裂し,群の分類はのによる半直積を調べる問題に帰着される(残念ながら半直積のTex記号\rtimesがでませんねぇ).位数12の群は5種類あることを既知とすれば,それぞれについて準同型 を調べることで,多少の手間はかかっても原理的には位数60の群の分類は可能となる.
命題1の証明の前に次の補題を示す.
補題
1) を位数15の群とする.このとき,.
2) を位数30の群とする.このとき,の5-Sylow部分群は正規である.
3) を位数12の群とする.このとき,の3-Sylow部分群または2-Sylow部分群は正規である.
<証明>
1) Sylowの定理より 5-Sylow群の個数は1,6,...であるが6個以上は群の位数を超えてしまうため,1しかありえない.また,3-Sylow群も同様に1個しか存在しない.これら2つ正規部分群の共通部分は単位元のみであるから .
2) の2-Sylow部分群の1でない元をとする.左正規表現 を考えたとき,の像はでの15個の互換の積となる(30個の元を2個づつ入れ替えるため).を置換の奇偶を与える準同型とすると,2つの準同型つなげたは全射となり,その核は指数2の正規部分群となる.つまり,は位数15の正規部分群を持つが,補題の1)より,それはに同型で,その5-Sylow部分群は正規. 正規部分群のSylow部分群がその正規部分群の中で正規なら,もともと正規部分群となる.(のp-Sylow部分群は自己同型で移りあうが,そのひとつが正規部分群に含まれているなら,全てのp-Sylow部分群はその正規部分群の中に含まれていなければならないため.)
3) Sylowの定理よりの3-Sylow部分群の個数は1か4である.1なら3-Sylow部分群が正規となるので,4とする.このとき4つの3-Sylow部分群はどの2つも交わりが1しかないため,は個の位数3の元を持っている.するとの元の残りは12-8-1=3個であり,2-Sylow部分群の数は1となる. 証明終わり.
上の2)の証明方法はもう少し一般化できて,位数がでは奇数という形の群はすべて位数の正規部分群を持つことになる.
<命題1の証明>
とする.が単純でないとすると自明でない正規部分群が存在する.の位数は補題より,30でも15でも(もちろん5)でもありえない.残る可能性は2,3,4,6,10,12,20であるが,このうち,10,20についてはSylowの定理からその5-Sylow部分群が正規となるため,補題2)と同じ論法で仮定に反する.の位数が5の倍数でないケースのみが問題となる.その場合,商群の位数は5の倍数であるから,となる.このうちを除けば,の5-Sylow群は今までに見たように自明でない正規部分群となり,自然写像での逆像はの自明でない正規部分群である.その指数はであるから素因子5を含まず,すなわちの位数が5の倍数ということになり,矛盾する.
残るはの場合であるが,このときの位数は12で,補題の3)より,その3-Sylowか2-Sylowのどちらかは正規部分群となり,すでに完了したのケースとなるため,矛盾である.証明終わり.
さらに『が単純 』が成り立つのであるが,これは次回にて.