近藤『群論』をこっそり読む その2

二章には特に目立ったミスやギャップはないと思う。


読者への挑戦は、§2.2(p.59)の

\begin{pmatrix}p^an\\ p^a\\ \end{pmatrix}\equiv n \quad (mod \quad pn)

を直接的に示せ、である。これもなかなか悩んだが、私の解答案は次の通り。


まず、\begin{pmatrix}p^an\\ p^a\\ \end{pmatrix}=n\begin{pmatrix}p^an-1\\ p^a-1\\ \end{pmatrix}である(これはただ二項係数の定義を書き並べればわかる)。すると\begin{pmatrix}p^an-1\\ p^a-1\\ \end{pmatrix}\equiv 1 \quad (mod \quad p)であればよいことになる。
左辺を詳しく見てみる。
\begin{pmatrix}p^an-1\\ p^a-1\\ \end{pmatrix}=\frac{(p^an-1)(p^an-2)\cdots (p^an-p^a+1)}{(p^a-1)(p^a-2)\cdots 1}
右辺の分母分子の因子の数は同じであるが、順にペアにして考えたとき、分母の因子がpで割りきれるときには必ず対応する因子もpで割りきれる。つまりp^an-kp^a-kのペアでkがpで割りきれるときのみ、p^an-kはpで割りきれるが、それはp^a-kも同様である。さらに、p^an-kp^b \quad (1\leq b\le a)で割り切れる最大のbとするときに、やはりkはp^bで割り切れ、p^a-kもそうであり、逆も正しい。これを踏まえて、ペアに対しては、両方を同じく最大のp^bで割れるだけ割ったものに置き換えると、k=k'p^b(ただし,k'はpで割り切れない)として、\frac{p^an-k}{p^a-k}=\frac{p^{(a-b)}n-k'}{p^{(a-b)}-k'}の右辺の分母分子は因子pを含んでいない。さて、この置き換えをしておくと、これらのペアの分数計算がmod pで計算できて、答えはすべて 1 である(mod pでは割り算ができるので計算が正当化される)。よってすべての項を合わせると、\begin{pmatrix}p^an-1\\ p^a-1\\ \end{pmatrix}\equiv 1 \quad (mod \quad p)が結論される。□


問2.10
GN-\{1\}上に共役として作用させる。N正規部分群なので共役作用で自分自身に移り、g^{\tiny -1}xg=1\quad \Rightarrow x=1なので、確かにN-\{1\}上作用している。定理2.1の系より、その軌道の元の数はGの約数でなければならないが、一方でその和である\mid N-\{1\}\midはpの倍数でないため、少なくとも一つの軌道の元の数は1、すなわち固定点でなければならない。その固定点はN\cap Z(G)の1でない元である。


問2.11
45=3^25であり、5-Sylow部分群を考えるとその数は、高々1,6,11,16(それ以上は5-Sylow部分群だけで群の位数45を超えてしまう)であるが、1以外は45の約数とならないため、数は1すなわち正規部分群となる。3-Sylowを考えるとその数は、1,4,7,10,13,16,19,21,24,27,30,33,36,39,41,44のどれかであるが、1以外は45の約数とならないため、3-Sylow群も正規部分群となる。群の元の位数はもとの群の位数の約数であるため、5-Sylow部分群と3-Sylow部分群の共通部分は1しかない。さらにそれぞれから元を取り出して交換子を作るとその元は共通部分に属するため、1となり、すなわち5-Sylow部分群と3-Sylow部分群は可換である(4章の直積となっている)。例題2.1より3-Sylow部分群が可換であるため、全体も可換となる。□
99=3^211であり、11-Sylow部分群を考えるとその数は、高々1,12(それ以上は11-Sylow部分群だけで群の位数99を超えてしまう)であるが、1以外は99の約数とならないため、11-Sylow部分群は正規部分群となる。3-Sylowを考えるとその数は、1+3nの形になるが、これが99の約数であるためには、1+3n=1,3,9,11,33,99のいずれかであるが、成立するのは1だけで、3-Sylow部分群も正規部分群である。あとは同様。□


問2.12
答えだけを述べる。位数p^3の非Abel群はZ(p^2,p,p+1,0)で構成できる。
位数pqの非Abel群はZ(p,q,a^{\tiny (p-1)/q)})で構成できる。ここにaは法pに対する任意の原始根とする。


問2.13
\mid SL(2,q)\mid = q(q^2-1)である。qが偶数のとき、q^2-1は奇数なので、2-Sylow部分群の位数はqとなる。具体的には
\{\begin{pmatrix} 1 & a \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\mid a\in F_q\}
なる部分群が2-Sylow部分群の一つであり、Abel群である。
qが奇数のとき、q=2^{\tiny k}n+1(ここにnは奇数かつk \ge 1)と書ける。ここでq\equiv 1\quad (mod\quad 4)q\equiv -1\quad (mod\quad 4)の2つの場合にわけると前者はk> 1、後者はk=1に対応している。
さて、q\equiv 1\quad (mod\quad 4)の場合は簡単で、2-Sylow部分群の位数はq=2^{\tiny k+1}であり、具体的にはb=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}a=\begin{pmatrix} \alpha^{\tiny (q-1)/(2n)} & 0 \\ 0 & \alpha^{-\tiny (q-1)/(2n)} \end{pmatrix}(ここに\alpha{F^*}_qの生成元の一つとする)を定義すれば、4元数型の群の定義 b^2=a^{n},\quad a^{2n}=1,\quad b^{\tiny -1}ab=a^{\tiny -1}を満たし、かつa,\quad bの生成する部分群の位数がちょうど4nであることが簡単な計算でわかる。さて、q\equiv -1\quad (mod\quad 4)の場合も何か具体的な表示ができるのではないかと最初は考えていた。しかし、これが難しいのはq+1から2の冪がいくらでも出てくる可能性があり(q=7,31とか)、その大きな数字の位数をもつ元を一般的な形で具体的に表示するのはちょっと無理そうだと気付いた。調べてみるとGorenstein, ”Finite Groups”p.42 になかなかトリッキーな証明があったのですこし砕いて紹介する。


F_q \subset F_{q^{2}}であるので、SL(2,q)\subset SL(2,q^2)と考える。
q^2\equiv 1\quad (mod\quad 4)であるので、先の結果より SL(2,q^2)の2-Sylow部分群は4元数型の群である。先に定義したa,\quad bが生成するSL(2,q)の部分群をSとする。SはSL(2,q)の2-Sylow部分群ではないが、その位数は2のベキなのでそれを含む、SL(2,q)の2-Sylow部分群S’が存在する。
また、S’を\subset SL(2,q^2)の部分群と考えるとその位数は2のベキなので、それを含む \subset SL(2,q^2)の2-Sylow部分群が存在する。さて、『4元数型の群の部分群で、Abel群でないものはまた4元数型の群である』が証明されたとすると、S’はSを含むため Abel群ではないので4元数型の群であることがわかって証明が完結する。


『4元数型の群Gの部分群G'で、Abel群でないものはまた4元数型の群である』を示そう。
[tex:G=\quad b^2=a^{n},\quad a^{2n}=1,\quad b^{\tiny -1}ab=a^{\tiny -1}]とする。G’はAbel群でないため、< a >以外の元を含んでおり、それらをa^kb \quad (k\ge 0)と表示する。この中でべきが最小値k_0となるものをt=a^k_0b と定義する。また、t^2=a^k_0ba^k_0b=ba^{\tiny -k_0}a^k_0b=b^2=a^nなので、< a >とG'の交わりには、1以外の元が含まれている。それらの中でベキが正で最小のものをs=a^{l_0}とおく。このときl_0は、nを割り切っている(余りが出るとl_0の最小性に反する)。また、同じような議論で G' \cap < a > = < s >も成立する。さて、m=n/l_0と置くと、t^2=a^n=s^m, s^{2m}=1は成立する。t^{\tiny -1}st=b^{\tiny -1}a^{\tiny -k}a^{l_0}a^kb=a^{\tiny -l_0}=s^{\tiny -1}と3つ目の関係式も成立する。また[tex:]の元の数が4mであることは直接の計算で示せるので、[tex:]は4元数型の群となる。残るは[tex:G'=]を示すだけである。G'の元で、 < a >に含まれないものは、a^kbの形をしている。(a^kb)t^{\tiny -1}=a^kbb^{\tiny -1}a^{\tiny -k_0}=a^{\tiny k-k_0}\in < s >であることからa^kb\in < s,t >となり、証明が完結する。□
後半は前半の結果を\begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}で、割ればよいだけなので易しい。


問2.16
例題2.4と同様の筋で解ける。必要な関係式は、\begin{pmatrix} 0 & 1\\ -1 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} e^{\tiny -i\theta} & 0 \\ 0 & e^{\tiny i\theta} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} e^{\tiny i\theta} & 0 \\ 0 & e^{\tiny -i\theta} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} e^{\tiny i2\theta} & 0 \\ 0 & e^{\tiny -i2\theta} \end{pmatrix}


問2.20
a,b,a',b'を任意の\Omegaの元でa\neq bかつa'\neq b'とするとき、ha=a'かつhb=b'なるh\in Gを見つけてみよう。G\Omegaで可移なので、f,f'\in Gfb=dかつf'd=b'なるものが存在する。このときfa\neq dかつ(f')^{\tiny -1}a' \neq dが成立するので、g\in G_dで、gfa=(f')^{\tiny -1}a'なるものが存在する。このときh=f'\circ g \circ fとすればよい。□


問2.21
\Omegaの中から異なるt個の元を選んだ順列の全体の集合を考える。その集合の元の数はnPt=n(n-1)\cdots (n-t+1)である。これらの元にはGが自然に作用するが、\Omega上の作用がt重可移であることから、この順列の集合上のGの作用は可移である。定理2.1の系より直ちに結論がでる。□