[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その13

 §52ではイデアル問題Cに取り組む。問題Cってそもそもなんだったかもう忘れそうになっているので復習。

ax^2+bxy+cy^2=k\ \Leftrightarrow \ N(ax+\frac{b+\sqrt{D}}{2}y)=ak
D:=b^2-4ac=Q^2m

の左辺の不定方程式を解くという問題で、\theta:=\frac{b+\sqrt{D}}{2},\ A:=(a,\theta)として、もし解(x,y)が存在するとき \alpha := ax+\theta y\in A から (\alpha)\subset A. 逆に解を求めるときには (\alpha)\subset Aなる\alpha \in AN(\alpha)=akなるものが解の候補となるが、一般的には\alpha := ax+\theta yと書くことはできない(a,\thetaが標準的底の条件 a \mid N(\theta)を満たさないため)。ところがAに含まれる単項イデアル(でノルムの条件を満たすもの)を全部しらべあげるので、解が存在していると (ax+\theta y)=(\alpha)イデアルとして等しいものが見つかることになる。そこで単項イデアルが等しい時、その生成元は単元の差しかないという定理から、ax+\theta y=\alpha \epsilon,\ N(\epsilon)=1となっているものを操作的に見つけ出すというのが問題Cである(この関係がどの\alphaに対しても存在しないとき、解は存在していない)。

さて、問題Cも結局は列挙して調べることになるが、そのままでは基本単数\epsilon_0の正負のベキの無限集合を調べなくてはいけないが、これを有限個に抑える工夫が定理5.26で与えられる。定理5.26では単数の中でも、


E=\frac{T+U\sqrt{D}}{2},\ (T^2-DU^2=4)

なる形のものが基本単数のベキE_0:=\epsilon_0^eのベキ \pm E_0^n\ (n=0,\pm 1,\pm 2,\cdots)で与えられるという結論を得ている。一方、この特殊な形の単数(テキストでは判別式Dに属する単数)は、簡単な計算で x+\theta yx'+\theta y'に移す、すなわち (x+\theta y)E=x'+\theta y'で、a,\thetaの有理整数係数の和であるという性質を保存する。するともしax+\theta y=\alpha \epsilonなるもの単数 \epsilonがあったとして、それを基本単数のベキで \epsilon=\pm \epsilon_0^nとする。もし |n|>eならax+\theta y=\pm \alpha \epsilon_0^nの両辺に \epsilon_0^{-e}を掛けることで、a,\thetaの有理整数係数の和であるという性質を保存しながら、右辺の\epsilon_0のベキの絶対値を小さくしていくことができる。結局、テキストにあるように解があるなら、

\alpha,\alpha \epsilon_0,\cdots,\epsilon_0^{e-1}

の中のどれかにa,\thetaの有理整数係数の和になっているものが存在していることになる。なので有限回の計算で確認できるという論法である。

[問題1] (ak,f)=1,\ N(\alpha)=akのとき


\alpha,\alpha \epsilon_0,\cdots,\epsilon_0^{e-1}

の中にa,\thetaの有理整数係数の和になっているものは高々一回だけ現れる。

[解]の中の(mod.\ f)とは (mod.\ (f))の意。\theta=\frac{b+\sqrt{D}}{2}=\frac{b+f\sqrt{d}}{2}K(\sqrt{m})の整数環の元であることは分かっているので \sqrt{m}の係数を比較すると\theta=\frac{b+f\sqrt{d}}{2}=r+f\omega\equiv r \pmod{f}と有理整数と合同という形になっている。
ak\in (\alpha)なので(\alpha,f)=1. \alpha \epsilon_1 \equiv r_1 \pmod{f}等で\epsilon_1等は単元(可逆元)なので (r_1,f)=1等である。 (r_1,f)=1から、u\cdot r_1+v\cdot f=1 ただし u,vは整数環の元である(有理整数とは限らない)。u=u_1+u_2 \omega,\ v=v_1+v_2 \omegaとすると、u_1 r_1+v_1 f=1,\ u_2 r_1+v_2 f=0なので u_2 r_1\equiv 0 \pmod{f}. そこで r_3:=u_1 r_2と定義すると r_1 r_3=r_1 u_1 r_2 \equiv r_1 u_1 r_2+r_1 u_2 \omega r_2 + vf \equiv (ur_1+vf) r_2=r_2. テキストの導出に従い最後に\epsilon_3\equiv r_3 \pmod{f}を得る。ここですぱっと、故に\epsilon_3=1. いや、先生、これそこまで自明じゃないです。しばらく悩みました。
 この結論の根拠は次のとおり。\epsilon_3=\frac{t+u\sqrt{d}}{2}と書いたときに、合同式f|uを与える。これより\epsilon_3=\frac{t+v\sqrt{D}}{2}と書き替えることができて、\epsilon_3\ne 1なら判別式Dに属する単数ということになるが、これは\epsilon_0^eが判別式Dに属する最小整数解であることに反するからである。

 以上でようやく二次不定式をイデアル論で解くすべての道具が揃った。

[例1] 3x^2+14xy+5y^2=\pm 6\ (d=4\cdot 34): K(\sqrt{34})
N(3x+(7+\sqrt{34})y)=\pm 18, A:=(3,\ 7+\sqrt{34})=[3,\ 7+\sqrt{34}](たまたま 3|N(7+\sqrt{34})=15 なので問題Cは必要ない)。N(J)=6なるJを求めるために、6=2\cdot 3の素因子の分解状況を見ると、P:=[2,\sqrt{34}]2=P^2. 3=AA'なので、J=PAまたはJ=PA'(p.326)。

 J=PAの場合はJA=PA^2=[2,\sqrt{34}][9,4+\sqrt{34}]=[18,9\sqrt{34},8+2\sqrt{34},34+4\sqrt{34}]
  =[18,4+\sqrt{34}]=(4+\sqrt{34})(∵ 18=(4+\sqrt{34})(-4+\sqrt{34}))なので単項イデアルとなり、\alpha=4+\sqrt{34}=-3+7+\sqrt{34}より、解x=-1,y=1が得られる。テキストのように基本単数を掛ければこの系統の同伴解が得られる(この基本単数はp.218 [例4]で求められている)。

 J=PA'の場合はJA=PA'A=3P=3[2,\sqrt{34}]=(6+\sqrt{34}).
後知恵だが、[2,\sqrt{34}]が単項イデアルであることを見るには、p.332の方法による。\omega:=[\sqrt{34}]+\sqrt{34}=5+\sqrt{34}で、\frac{\sqrt{34}}{2}の連分数展開は、

Θ=0+1/2*√34=2.9154759474226504

2, 4/9+1/9*√34
1, 5+1*√34
10, 5/9+1/9*√34
1, 2+1/2*√34
4, 4/9+1/9*√34
...

なので確かに\omega=5+\sqrt{34}が二行目に出現している。\Theta=2+\frac{1}{1}{}_+\frac{1}{\omega}=\frac{3\omega+2}{\omega+1}なので、\rho=\omega'+1=6-\sqrt{34}となり、[2,\sqrt{34}]=(6-\sqrt{34}) (テキストだと(6+\sqrt{34})となっているが同じイデアルである)。\alpha=3(6+\sqrt{34})=18+3\sqrt{34}=3\cdot(-1)+(7+\sqrt{34})\cdot 3より、解x=-1,y=3が得られる。

[例2] 2x^2+6xy-9y^2=11\ (D=108=3^2\cdot 12): K(\sqrt{3}), d=4\cdot 3,f=3今度は問題Cが自明でない場合である。N(2x+(3+3\sqrt{3})y)=22より、A:=(2,\ 3+3\sqrt{3})=[2,\ 1+\sqrt{3}] とあるが、最後の等式は証明がいる。

21+\sqrt{3}を掛けて二番目の生成元から引けば A:=(2,\ 3+3\sqrt{3})=(2,\ 1+\sqrt{3})を得るので(2,\ 1+\sqrt{3})\supset [2,\ 1+\sqrt{3}]は明らか。(x+y\sqrt{3})2+(z+w\sqrt{3})(1+\sqrt{3})=2(x-y+w)+(2y+z+w)(1+\sqrt{3}) なので逆の包含関係も成立する。

この形だとN(A)=2は直ちに出る。そこでN(J)=11なるものを探すが、素因数11の分解の状況は11=[11,5+\sqrt{3}][11,5-\sqrt{3}]なので、J=[11,5+\sqrt{3}]または J=[11,5-\sqrt{3}].
 AJ=[2,\ 1+\sqrt{3}][11,5+\sqrt{3}]=[22,11+11\sqrt{3},10+2\sqrt{34},8+6\sqrt{3}]
  =[22,5+\sqrt{3}]=(5+\sqrt{3}). \alpha=5+\sqrt{3}となるが、確かに2,3+3\sqrt{3}では(有理整数係数で)展開できないので問題C案件である。
 d=12の基本単数はテキストではあっさり書かれている。どこかで求めていたような気もするが、p.215の定理3.9によれば、たとえばx^2-4x+1=0の判別式は[12]なので、その解の一つ\Theta:=\frac{4+\sqrt{12}}{2}=2+\sqrt{3}を連分数展開して、

Θ=2+1*√3=3.732050807568877

3, 1/2+1/2*√3
1, 1+1*√3
2, 1/2+1/2*√3
1, 1+1*√3
...

から簡約された二次無理数として\theta:=1+\sqrt{3}が得られ、また同時に\theta=2+\frac{1}{1}{}_+\frac{1}{\theta}=\frac{3\theta+1}{\theta+1}. よって\epsilon_0=\theta+1=2+\sqrt{3}. 判別式 Dに属する基本単数を求めるには、p.319の定理5.26により、\Phi(f)=\Phi(3)=3^2\cdot (1-\frac{1}{3})=6 から、\epsilon_02,3,6のいずれかのベキがこれを与える。
(2+\sqrt{3})^2=7+4\sqrt{3} : 不適
(2+\sqrt{3})^3=(7+4\sqrt{3})(2+\sqrt{3})=26+15\sqrt{3} : 適 (∵3|15)よって、テキスト通りにE_0=26+15\sqrt{3}.

\alpha \epsilon_0=(5+\sqrt{3})(2+\sqrt{3})=13+7\sqrt{3} : 不適
\alpha \epsilon_0^2=(5+\sqrt{3})(7+4\sqrt{3})=47+27\sqrt{3}=2\cdot 10+9(3+3\sqrt{3}). これより 解x=10,y=9を得る。テキストの解とは違うが、(47+27\sqrt{3})(26-15\sqrt{3})=7-3\sqrt{3}と一つずれているだけである。

 またJ=[11,5-\sqrt{3}]の方からは同様に共役の解が得られる。

[例3] 8x^2+12xy-9y^2=-4\ (D=6^2\cdot 12): K(\sqrt{3}), d=12,f=6
 y^2の係数だけが奇数なので、yは偶数でy=2y'となる。与式は2x^2+6xy'-9y'^2=-1となってしまうので、D=108=3^2 12,d=12,f=3で、N(2x+(3+\sqrt{27})y')=-2. A=(2,3+3\sqrt{3})=[2,1+\sqrt{3}]=(1+\sqrt{3})と問題2と同じだが、N(J)=1なのでJ=(1)しかない。
 \alpha=1+\sqrt{3}:不適。
 \alpha \epsilon_0 = (1+\sqrt{3})(2+\sqrt{3})=5+3\sqrt{3}=2\cdot 1+(3+3\sqrt)\cdot 1より 解 x=1,y'=1.
 \alpha \epsilon_0^2 = (1+\sqrt{3})(7+4\sqrt{3})=19+11\sqrt{3}: 不適。


とりあえず、今回は[例3]まで。