[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その15

 最近はめっきり更新間隔がでたらめだが、これは実は次に読もうと思う数学書を物色しているうちにそっちに読み始めてしまっているという単純な理由である。二次体という具体的なものを一生懸命やった反動で反対方向に振れてしまって JechのSet Theoryという太い本に手をだしている。公理論的集合論はいままで何度かトライしてみたことがあるのだが、あまり先に進めないまま挫折してきた。途中で証明のロジックのツボがわからなくなってしまうのである(そういうときはだいたい定義や公理の意味をきちんと理解できていないときが多い)。しかし、今回は何かが臨界に達したのか、『読める、読めるぞ!』という感じである。この調子でPart I Basic Set Theory ぐらいまではいければいいな。しかし、この分野にはちょこっと計算の出番がないという欠点があってブログのネタになかなかならないんだよねぇ...

さて、§52の最後の問題5である。合わせて§53で5章は終わりとなる。

[問題5] x^2-5y^2=k D=20,\ f=2: K(\sqrt{5})
 N(x+\sqrt{5}y)=k. A=[1,\sqrt{5}]=(1),\ N(A)=1なのでN(J)=|k|なるような単項イデアル Jを探すことになる。ただ、テキストにあるようにK(\sqrt{5})ではh=1なので、単項イデアルという条件はいつでも成り立っており、ノルムだけの問題となる。まず例によってK(\sqrt{5})における有理素数の分解状況を確認しよう。d=5なので、分岐するのは 5のみ。(\frac{5}{p})=(\frac{p}{5})より p\equiv \pm 1 \pmod{5}の時、完全分解。p\equiv \pm 2 \pmod{5}の時、惰性。そこで Jが原始イデアル条件は、完全分解される有理素数(p=5n\pm 1)あるいは、p=5を高々一回のみ含む場合となる。ただ、テキストには J=(\rho)であっても一般には\rho=\frac{a+b\sqrt{5}}{2}なので、有理整数解を得るにはa,bともに偶数である必要があるとかいまさら指摘があるが、これはイデアルの問題Cの言い換えに過ぎないので何も新しい問題ではない。
 さて、\epsilon_0:=\frac{1+\sqrt{5}}{2}のノルムは-1なので、\rho\epsilon_0を掛ければ符号を変えられるので、kが正でも負でも N(\alpha)=kなる整数 \alphaが存在する。\epsilon:={\epsilon_0}^2=\frac{3+\sqrt{5}}{2}N(\epsilon)=1なる基本単数である。
\epsilon^2=(\frac{3+\sqrt{5}}{2})^2=\frac{7+3\sqrt{5}}{2},\ \epsilon^3=\frac{7+3\sqrt{5}}{2}\frac{3+\sqrt{5}}{2}=9+4\sqrt{5}なので、\epsilon^3が判別式20に対する基本単数である。よって、\alpha,\ \alpha\epsilon,\ \alpha\epsilon^{-1}のどれかがx+y\sqrt{5}という形をしているものがあればそれが解であり、なければ解は無い。
 テキストでは続けて、解があるなら \alpha,\ \alpha\epsilon,\ \alpha\epsilon^{-1}の中の一つだけに限るという考察を続けているが、まあ、具体的な問題だと3回やるだけなので、あまり重要性を感じないが、いつものように整理してみよう。

 \alpha=\frac{a+b\sqrt{5}}{2}としたとき、b,\ \frac{a+3b}{2},\ \frac{-a+3b}{2}のうち一つだけが偶数になるというのが同値な主張である。
ここでノルムの条件 \frac{a^2-5b^2}{4}=kが成立している。また、原始解の場合、先の考察からkは奇数である。

ア)bが奇数の場合:
\alphaが整数なので、aも奇数。一方、\frac{a+3b}{2}-\frac{-a+3b}{2}=aなので、\frac{a+3b}{2},\ \frac{-a+3b}{2}の片方だけが偶数となる。よってこの場合はOKである。

イ)bが偶数の場合:
\alphaが整数なので、aも偶数。一方、ア)と同様の考察により、\frac{a+3b}{2},\ \frac{-a+3b}{2}は同時に奇数(この場合は証明完了)か偶数となる。偶数の場合、(a/2+3b/2)(-a/2+3b/2)\equiv 0 \pmod{4}となるが、一方、k=(a/2)^2-5(b/2)^2\equiv (a/2)^2-(b/2)^2\equiv (a/2-b/2)(a/2+b/2)
\equiv -(a/2-b/2)(a/2+b/2) \equiv 0 \pmod{4}より、kが奇数であることに矛盾する。□


例1) x^2-5y^2=11:
11(\frac{11}{5})=(\frac{1}{5})=1なので完全分解する有理素数である。ちょこっと計算すると P=[11,4+\sqrt{5}])となるが、これは実は単項イデアル(4+\sqrt{5})になっているのはすぐにわかる。で、この場合はもうこれで終わりで、一般解は x+y\sqrt{5}=\pm (4+\sqrt{5})(9\pm 4\sqrt{5})^n\ (n=0,1,2,\cdots)となる。

例2)  x^2-5y^2=19:
19(\frac{19}{5})=(\frac{-1}{5})=1なのでこれも完全分解する有理素数である。素イデアルを求める計算をきちんとやると、r^2\equiv 5 \pmod{19}を総当たりで解いて r=9. 2b+1\equiv 9 \pmod{19}は さくっと b=4で解けるので、P=[19,4+\omega]=[19,\frac{9+\sqrt{5}}{2}]. これも単項イデアル (\frac{9+\sqrt{5}}{2})となっている。すなわち、\alpha=\frac{9+\sqrt{5}}{2}で、\alpha \epsilon=\frac{9+\sqrt{5}}{2}\cdot \frac{3+\sqrt{5}}{2}=8+3\sqrt{5} からOKでこれから一般解が作れる。念のため、\alpha \epsilon^{-1}=\frac{9+\sqrt{5}}{2}\cdot \frac{3-\sqrt{5}}{2}=8+3\sqrt{5}=\frac{11-3\sqrt{5}}{2}で、これは解にならない。


ラストの§53は一般の二次二元不定方程式を扱っている。結局、斉次式に変形できて、いままでのイデアルによる解法が使える。ただし、元の不定方程式の整数解があれば変形後の方程式の整数解が存在するが、逆の変形が整数解を整数解に対応させないこともあるので、変形後の整数解が元の不定方程式の整数解になっているかは個別に検討する必要があるようだ。計算そのものはそう面白いものではないので、テキストの『次の例はGaussが取り扱ったものである』の部分にこだわってみた。その例とは

x^2+8xy+y^2+2x-4y+1=0

だが、Gaussの『 Disquisitiones Arithmeticae』のラテン語原書のpp.307-308にある。左ページの中央やや下あたりである。

一般解がさらっと記載されているが、原書の第5章で140ページぐらい一般論で費やした結果の例の一つのようだ。式の形は微妙に違って見えるが、具体的な解はテキストと一致している。変形後の不定方程式の定数項をわざわざ3^2倍してあるのはp,q3で割れるのにいまひとつ理由はわからない。Gaussの一般論からの都合なのかもしれないが、衒学的考察はこれぐらいにしておこう。

 2節の判別式が0になるときは、まあ大体問題は簡単に解けるようになるのだが、モ変形を使うのがふーんという感じである。ちなみに天下りY=-x+yの方は、X=3x-2y32が互いに素なので、そこから出してきている。

さて、長々と続いた『第五章ノート』も今回でいったん終了である。んー次のネタなにするかなぁ...実は『初等整数論講義 第2版』は附録が最も面白いという評判ががが...