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[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その12
p.333 附記から。二次体の整数環のイデアル類数を具体例で計算してみようというコーナである。計算で出すというよりは、イデアル類の数を本当に数える戦略。
さて、その前にちょっと準備がある。テキストではかなりさらっと流されているので確認しながら進めてみる。突然だが、二次体での判別式をとするときに次のような集合を考える。この集合の元から作られる二次方程式 の解のひとつを選んでと定義する。ここで、イデアルを考えようというのだが、これがwell-definedであるために、つぎの2つの点を確認が必要となる。まず、① なるものが、そもそも整数環の元であるかどうか。その上で ② が標準的底の条件 を満たすかどうか。
ア)の場合:
さて、上でのの係数を見るとわかるように、は原始イデアルである。最後に確認が必要なのはすべての原始イデアルがこの形で書けるということ。
任意の原始イデアルをとする。
ア)の場合:
以上の準備でようやくテキストのようにを調べて、類数を計算できる保証ができたことになる。
虚の二次体の場合は基本区域に存在するを数え上げればそれらが互いに対等にならない原始イデアルを代表するのでそれが類数となる。
と を比較して、であることに注意すれば、
これをまとめるとでどちらかの等号が成り立つときは とテキストの条件となる。これより なので に注意すれば が出る。よって は有限個の値しかとらず、なのでも有限個の組み合わせしかない。
[例1] : は偶数で . よって . それぞれに対応する は . になるように分解すればp.334の表が得られる。ただし、またはのときは だけを採用する。虚の二次体の場合は非常に簡単である。
実二次体の場合は、判別式に属する簡約された二次無理数の数は有限で(§32)それらを列挙し、連分数展開して終項に現れるかどうかで対等なものらを一つと数えればそれが類数となる。
[例2] :は偶数。まずは判別式 に属する簡約された二次無理数を列挙するという作業が必要(p.201 定理3.5)。
かつ . よって . と の範囲 を使う (という条件もある)。
・のとき、 , . なのでのみ。.
・のとき、 , . だが、これを満たす78の因子が無いので解は無い。
・のとき、 , . だが、これを満たす73の因子が無いので解は無い。
・のとき、 , . なのでまたは 。.
・のとき、 , . だが、これを満たす57の因子が無いので解は無い。
・のとき、 , . これを満たす46の因子が無いので解は無い。
・のとき、 , . なのでまたは 。.
・のとき、 , . なのでまたは またはまたは。.
・のとき、 , . なのでのみ。. これは単項イデアルに相当する。
さて、実二次体の場合はさらにここから連分数展開が必要となる。連分数展開すると再び自分自身が終項に現れるまでの数が同じ原始イデアルを代表する簡約された二次無理数の数となる。ここからはテキストp.335の表の上から順番にちょこっと計算の結果を見ていこう(いらないprint文は消した)。
:
Θ=9+1*√82=18.055385138137417 18, 9+1*√82 18, 9+1*√82 18, 9+1*√82 ...
これは単項イデアルなので、自分しかいない。
:
Θ=4+1/2*√82=8.527692569068709 8, 8/9+1/9*√82 1, 1/9+1/9*√82 1, 4+1/2*√82 ...
テキストの表で(1)のマークのある二次無理数が出現していることが確認できる。
次は一つ飛ばして、
:
Θ=8/3+1/3*√82=5.6851283793791385 5, 7/11+1/11*√82 1, 2/3+1/6*√82 2, 8/3+1/3*√82 ...
テキストの表で(2)のマークのある二次無理数が出現している。
:
Θ=4/3+1/6*√82=2.8425641896895693 2, 4/11+1/11*√82 1, 7/3+1/3*√82 5, 4/3+1/6*√82 ...
テキストの表で(3)のマークのある二次無理数が出現している。
以上でテキスト通りに結局 であることが確認できた。
最後にp.336の[注記]について補足。ここで「定理5.19の証明中に述べた」言っているのは、類の中の最小ノルムを持つイデアルをとして としたとき、自動的には原始イデアルとなり と書けるというものである。一方 とに制限があるので、を素イデアルに分解したとき、その素イデアルのノルムはより小さくなければならないので、はより小さい有理素数で分解されるもの(分岐か完全分解される素数)の素イデアルの積になっていることがわかる(惰性の素数を素イデアル分解に含むと原始イデアルでなくなるため)。同様の論法は虚の二次体でも通用するので、いずれの場合も判別式で決まる有限の範囲の有理素数で分解するものの積(しかも積のノルムも制限されているのでそれらも有限個しかない)を調べることで類数およびその積の群構造を決定できるということになる。なかなか不思議。