[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その4(ハマり編)

 §47の問題を続ける。[問題3]の注意でめちゃくちゃハマった。

[問題3] q_1\equiv q_2 \equiv 3 \pmod{4}とすれば、二次体K(\sqrt{q_1 q_2})において、(q_1)=Q_1^2,\ (q_2)=Q_2^2とするとき、Q_1Q_2も単項イデアルである。

[解] K(\sqrt{q_1 q_2})の基本単数を\epsilonとすると、[問題1]より N(\epsilon)=1. ところでq_1 q_2 \equiv 1 \pmod{4}なので、判別式 d=q_1 q_2である。そこで[問題2]より、少なくともQ_1,Q_2のどちらかは単項イデアルとなる。
 Q_1 Q_2=(\sqrt{q_1 q_2})を示そう。(\sqrt{q_1 q_2})(\sqrt{q_1 q_2})=(q_1) (q_2)=Q_1^2 Q_2^2なので、このことから (\sqrt{q_1 q_2})を素イデアル分解したときには Q_1 Q_2以外の組み合わせがないことがわかる。
 イデアルに単項イデアルを積した結果が単項イデアルなら、もともとのイデアルが単項イデアルであることは前回の[問題2]での同じ議論が使えるため、結局 Q_1,Q_2の両方とも単項イデアルということになる□


[注意] Q_1=(\kappa_1),\ Q_2=(\kappa_2)とすると Q_1 Q_2=(\kappa_1 \kappa_2)=(\sqrt{q_1 q_2}). [問題2]での「整域の2つの単項イデアルが等しいとき、その生成元は単数の差でしかない」を使うと \kappa_1 \kappa_2=\eta \sqrt{q_1 q_2}で、\etaは単数かつ N(\eta)=1(∵ -1でないのは基本単数のノルムが1だから)となる。両辺のノルムを計算して、N(\kappa_1 \kappa_2)=N(\eta)N(\sqrt{q_1 q_2})=-q_1 q_2.
 次の q_1 x^2-q_2 y^2=\pm 1がどこから湧いたのか説明はないが、いったん解の存在を認めるとして、もし右辺の\pmの両方に解があったとする。


q_1 x^2-q_2 y^2= 1,\  q_1 z^2-q_2 w^2= -1

最初の式にq_1を掛けて (q_1 x)^2-q_1 q_2 y^2=N(q_1x+y\sqrt{q_1 q_2})=q_1を得るので、q_1 x+y\sqrt{q_1 q_2}=\eta_1 \kappa_1,\ N(\eta_1)=1となる。二番目の式にq_2を掛けて同様にすると、q_2 w+z\sqrt{q_1 q_2}=\eta_2 \kappa_2,\ N(\eta_2)=1. これらの辺々を掛けて(q_1 x+y\sqrt{q_1 q_2})(q_2 w+z\sqrt{q_1 q_2})=\eta_1 \eta_2 \kappa_1 \kappa_2. 両辺のノルムを計算すると q_1 q_2 = N(\kappa_1 \kappa_2)となるが、この結果は[注意]の最初の結果に反している。ということで残るは『必ず解を有する』の部分である。ここで大ハマりである。
 さて、\kappa_1等の存在は保証されているので、\kappa_1=\frac{x+y\sqrt{q_1 q_2}}{2}とすると(ここが重要なポイント。m=q_1 q_2 \equiv 1 \pmod{4}を忘れてはいけない)\pm q_1=N(\kappa_1)=\frac{x^2-q_1 q_2 y^2}{4}より、q_1 \mid xなので、q_1を一つ外したものを改めてxとして、全体をq_1で割って、4を払えば、q_1 x^2- q_2 y^2 = \pm 4 の整数解の存在は保証されている。ああ、高木先生、勘違いされましたね。それとも14のミスプリかな、ちょっと似てるし。と勝手に納得してq_1 x^2- q_2 y^2 = \pm 1に解がない場合という反例を探し始めたのである。


ちなみに q_1 x^2-q_2 y^2= \pm 1の有理整数解があるとすると、これからモ変形:

\frac{q_1 x \sqrt{q_1 q_2}/q_1 +q_2 y}{y \sqrt{q_1 q_2}/q_1 +x}=\frac{q_1 x \sqrt{q_1 q_2} +q_1 q_2 y}{y \sqrt{q_1 q_2} +x q_1}
=\frac{(q_1 x \sqrt{q_1 q_2} +q_1 q_2 y)(-y \sqrt{q_1 q_2} +x q_1)}{-y^2 q_1 q_2 +x^2 q_1^2}=\frac{q_1 (x \sqrt{q_1 q_2} + q_2 y)(-y \sqrt{q_1 q_2} +x q_1)}{\pm q_1}
=\pm ( -xy q_1 q_2 + q_2 xy q_1 q_2+  (q_1x^2-q_2 y^2) \sqrt{q_1 q_2})=\sqrt{q_1 q_2}
ができるので、\sqrt{q_1 q_2}\sqrt{q_1 q_2}/q_1は対等となる。逆をたどることもできるので、この2つの条件は実は同値となっている。そこで\sqrt{q_1 q_2}\sqrt{q_1 q_2}/q_1が対等とならないような q_1,\ q_2を探そうというわけである。

さあ、ちょこっと計算の出番である。二次の無理数を含む分数を連分数展開するpythonプログラムを作ってみた。計算精度を気にしなくてもいいように形式計算にしてある。

import math
from fractions import Fraction

# x = a+b √m を連分数展開する

a = Fraction(0,1)
b = Fraction(1,1)
m = 21

def value(x):
    return x[0]+x[1]*math.sqrt(m)

x = [a,b] # x ~ a+b*√m の表現

print('{}+{}*sqrt({})={}\n'.format(a,b,m,value(x)))

for i in range(100):
    x_int = math.floor(value(x))

    #x ~ 1\(x-x_int)
    x = [x[0]-x_int,x[1]]
    n = x[0]*x[0]-m*x[1]*x[1]
    x = [x[0]/n,-x[1]/n]
    print('{}, {}+{}* √{}'.format(x_int,x[0],x[1],m))

 次の[例]がm=3\times 7=21なのでa,\ b,\ mをいじりながら計算させてみる。
まず、\sqrt{21}.

0+1* √21=4.58257569495584

4, 4/5+1/5* √21
1, 1/4+1/4* √21
1, 1+1/3* √21
2, 3/4+1/4* √21
1, 1/5+1/5* √21
1, 4+1* √21
8, 4/5+1/5* √21
1, 1/4+1/4* √21
1, 1+1/3* √21
2, 3/4+1/4* √21
1, 1/5+1/5* √21
1, 4+1* √21
8, 4/5+1/5* √21
...

左に並んでいる数字は連分数展開の数字である。

\sqrt{21}=[4,1,1,2,1,1,8,1,1,\dots]
となる。右の表記はそこまでの展開の終項であって、たとえば
\sqrt{21}=4+\frac{1}{1}+\frac{1}{1}+\frac{1}{1+\sqrt{21}/3}
となる。

そして \sqrt{21}/3.

0+1/3* √21=1.5275252316519465

1, 3/4+1/4* √21
1, 1/5+1/5* √21
1, 4+1* √21
8, 4/5+1/5* √21
1, 1/4+1/4* √21
1, 1+1/3* √21
2, 3/4+1/4* √21
1, 1/5+1/5* √21
1, 4+1* √21
8, 4/5+1/5* √21
1, 1/4+1/4* √21
1, 1+1/3* √21
2, 3/4+1/4* √21
...

ありゃ? 対等ですな。\omega=\frac{3+\sqrt{21}}{4}を媒介にすると

\sqrt{21}=4+\frac{1}{1}+\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{\omega}=\frac{23\omega+9}{5\omega+2} (これは手計算)
同様に
\sqrt{21}/3=1+\frac{1}{\omega}=\frac{\omega+1}{\omega}

この2つの表式から\sqrt{21}/3から\sqrt{21}のモ変形は、

\begin{pmatrix}  23 & 9 \\  5 & 2 \end{pmatrix}{\begin{pmatrix}  1 & 1 \\  1 & 0 \end{pmatrix}}^{-1}=\begin{pmatrix}  9 & 14 \\  2 & 3 \end{pmatrix}
となる。下2つの数字から直ちに x=3,\ y=2が読み取れて、確かに3\cdot 3^2-7\cdot 2^2 = -1q_1 x^2-q_2 y^2= \pm 1の解になっている。たまたま?
 しかし、その後いろいろとq_1,\ q_2を取り換えて実験してみたが、いずれも\sqrt{q_1 q_2}\sqrt{q_1 q_2}/q_1は対等という判定が出てしまう。一般的に二次の無理数を整数で割ったからと言って対等になるわけがない。実際、条件のq_1\equiv q_2 \equiv 3 \pmod{4}を外せば反例はある。この実験結果はq_1 x^2-q_2 y^2= \pm 1の解の存在は、先生の思い違いでもミスプリでもなさそうだということを示している。
 しかし、第3章の連分数を使ったGaussの解法も反例や具体例の計算ならともかく、モ変形の存在と不定方程式の解の存在は同値であることがわかるだけで無力である。さあ、思わぬところでハマってしまったぞ... 次回、解決編にこうご期待!