[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その14

 §52の問題4から。今回も怒涛の文字密度である。

[問題4] x^2+5y^2=k D=-20: K(\sqrt{-5})
 N(x+\sqrt{-5}y)=k. A=[1,\sqrt{-5}]=(1),\ N(A)=1なのでN(J)=kなるような単項イデアル Jを探すことになる。例によってkの素因数の分解状況の情報が必要で、テキストでは

(\frac{-5}{p})=1,\ p\equiv 1,3,7,9 \pmod{20}:完全分解
(\frac{-5}{q})=-1,\ q\equiv 11,13,17,19 \pmod{20}:惰性
l=2,5:分岐

と与えられている(p.292 定理5.16)。上記の後半は(\frac{-5}{p})=(\frac{-1}{p})(\frac{5}{p})=(-1)^{(p-1)/2} (\frac{p}{5})からの計算である(例えば 17だと前の項から+1、後ろから-1がでるので全体で-1なので(\frac{-5}{q})=-1)。

Jを素イデアルに分解してそのノルムを考えれば、qすなわち惰性の素イデアルを含むとそのノルムはq^2になるので、kqの偶数ベキを含むことになる。
 次にJが単項イデアルになるための条件を求める。K(\sqrt{-5})では h=2であることは分かっている(§45)。原始イデアルL=[2,1+\sqrt{-5}]が単項イデアルでないことは、現時点での知識では\frac{1+\sqrt{-5}}{2}をシフトした\frac{-1+\sqrt{-5}}{2}が基本領域に属していて、かつ\sqrt{-5}に一致していないことからもわかる。

さて、完全分解する有理素数pに対して、N(P)=pなる素イデアルPを考える。

ア)Pが単項イデアルの場合:

P=(x+y\sqrt{-5})としたとき、p=N(P)=x^2+5y^2.x^2\equiv p \pmod{5}なので(\frac{p}{5})=1よって p\equiv \pm 1 \pmod{5}. これと先の完全分解の条件と合わせると、p\equiv 1,9 \pmod{20}であり、このタイプの有理素数をテキストの表記に合わせてp_1とする(ここまでではまだp_1タイプはPが単項イデアルであることの必要条件でしかない)
イ)Pが単項イデアルでない場合:
イデアル類の群構造が\mathbb{Z}_2なので、PLは単項イデアルとなるため、PL=(x+y\sqrt{-5})と書ける。ノルムを取れば2p=x^2+5^y. これより (\frac{2p}{5})=1. 2p\equiv \pm 1なので、両辺に3を掛ければ、p\equiv 6p\equiv \pm 3. 完全分解の条件と合わせると p\equiv 3,7 \pmod{20}. このタイプをp_2と表記する。

上記の ア)、イ)で\pmod{20}での分類を尽くしていて、かつ重複がないため、それぞれが必要十分条件であることがわかる。

 また、分岐する有理素数q=2,5に対する素イデアルPがもし単項イデアルP=(x+y\sqrt{-5})になったとするとノルムより q=x^2+5y^2. q=2のときはそもそもこれに有理整数解がない(L2を分解する単項でない素イデアルであった)し、q=5のときは P=(\sqrt{-5})という単項イデアルになっている。

以上をまとめると、x^2+5y^2=kの原始解の存在の必要十分な条件は、k素因数分解したとき、

qタイプ(惰性)を含まず(∵含むと原始解でなくなる)
lタイプ(分岐)すなわち 2,5をそれぞれ高々1つしか含まず(∵それぞれで2つ以上含むと原始解でなくなる。5の分解に対応する素イデアルは単項イデアルであることに注意)
pタイプ(完全分解)のうち、p_2タイプを含む数と2を含む数の合計が偶数(積が単項イデアルになる条件)。
となる。テキストの例にあたってみる。

1) x^2+5y^2=29: 素因子29\equiv 9 \pmod{20}は、p_1タイプであるので原始解が存在する。29を素イデアルに分解するには、r^2\equiv -5\equiv 24 \pmod{29}の解が必要だが、ちょこっと計算すると r=13が求まる。P=[29,13+\sqrt{-5}]となるが、これは実は単項イデアルのはずである。答えはすでにテキストに一発で出ているのだが、ここは先の単項イデアルの生成元を計算するアルゴリズムを使ってみよう。

\Theta:=\frac{13+\sqrt{-5}}{29},\ -\frac{1}{\Theta}=\frac{-13+\sqrt{-5}}{6}. 2シフトして、\frac{-1+\sqrt{-5}}{6}. -\frac{6}{-1+\sqrt{-5}}=1+\sqrt{-5}. -1シフトで \sqrt{-5} で確かに\omega=\sqrt{-5}と対等なので単項イデアルである。モ変形は


\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}
 \begin{pmatrix} 1 & -2 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}
 \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} -1 & -1 \\ -2 & -3 \end{pmatrix}

すなわち\Theta=\frac{\sqrt{-5}+1}{2\sqrt{-5}+3}を得る。この分母の共役が単項イデアルの生成元 P=[29,13+\sqrt{-5}]=(3-2\sqrt{-5})となる。よって解はx=\pm 3,\ y=\pm 2.


2) x^2+5y^2=46: 46=2\cdot 23で、素因子23\equiv 3 \pmod{20}は、p_2タイプである. テキストで15^2\equiv -5 \pmod{23}を与えてもらっているので、23を分解する素イデアルP=[23,15+\sqrt{-5}]とわかる。2の方は再録するとL=[2,1+\sqrt{-5}]である。LP=(\alpha)なるような\alphaが欲しいが、テキストでは"迅速"な方法として、謎の計算が行われている。このロジックをほぐすと次のようである。

15+\sqrt{-5}Pで割りきれる。∵ (15+\sqrt{-5})\subset P=[23,15+\sqrt{-5}]

15+\sqrt{-5}Lでも割りきれる。∵ N(15+\sqrt{-5})=230=2\cdot 5 \cdot 232を素因子に含むため。

③ よって15+\sqrt{-5}PL=(\alpha)で割り切れる。どちらも単項イデアルなので、15+\sqrt{-5}=x\alpha なる整数xが存在する。両辺のノルムを比較すると N(x)=5すなわち x=\pm\sqrt{-5}.

④ そこで \alpha=(15+\sqrt{-5})/\sqrt{-5}=1-3\sqrt{-5}となる。

解はx=\pm 1,\ y=\pm 3. またP'からスタートしても\alpha'が得られるだけなので別の解は生じない。


3) x^2+5y^2=989=23\cdot 43: 23,43どちらもp_2タイプである。
対応する素イデアルをそれぞれA:=[23,15+\sqrt{-5}],\ B:=[43,9+\sqrt{-5}]とする(Aは形はちょっと違うが既出。B9^2=81\equiv -5 \pmod{43}よりOKである)。
続く計算も一見謎だが、解読するとこうなる。

N(8+\sqrt{-5})=69=3\cdot 23なので、(8+\sqrt{-5})=[69,8+\sqrt{-5}]=[3,8+\sqrt{-5}][23,8+\sqrt{-5}] (∵ 最後は§50 問題1を使った).

②同様に N(9+\sqrt{-5})=86=2\cdot 43なので、(9+\sqrt{-5})=[86,9+\sqrt{-5}]=[2,9+\sqrt{-5}][43,9+\sqrt{-5}].

③そこで、(8+\sqrt{-5})(9+\sqrt{-5})=[3,8+\sqrt{-5}][2,9+\sqrt{-5}]AB.
④ 一方 [3,8+\sqrt{-5}][2,9+\sqrt{-5}]=(-1+\sqrt{-5}). なぜなら、左辺[3,8+\sqrt{-5}][2,9+\sqrt{-5}]=[6,27+3\sqrt{-5},16+2\sqrt{-5},67+17\sqrt{-5}]
=[6,-1+\sqrt{-5}]=(-1+\sqrt{-5}).

K(-5)の単元は\pm 1しかないので、AB=(\rho)とすると、\rho=\frac{(8+\sqrt{-5})(9+\sqrt{-5})}{-1+\sqrt{-5}}=3+14\sqrt{-5}. すなわち x=\pm 3,\ y=\pm 14.

今回は別の解が AB'から生じる可能性がある。上の結果②の共役をとれば B'[2,9-\sqrt{-5}]=(9-\sqrt{-5})を得る(テキストにはBにプライムがついてないというミスプリがある。また、[2,9+\sqrt{-5}]=[2,1+\sqrt{-5}]の共役は自分自身に等しい)。あとは同様の計算で、\frac{(8+\sqrt{-5})(9-\sqrt{-5})}{-1+\sqrt{-5}}=-12-13\sqrt{-5}. よって、 x=\pm 12,\ y=\pm 13.