[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その2

 今回はp.311の[問題3]の下にある[注意]から。これもうっかり油断していると放たれる高木先生のジャブである。

二次体の整数環RとそのイデアルMについて、一次合同式 \alpha x \equiv \beta\ \pmod{M}(\alpha,M)=Dなら、\beta\in Dのとき解が存在し、その数は\pmod{M}N(D) 個.

 解の存在については、本書の証明がそのまま使える。問題は個数の部分である。よく見ると[問題3]の証明中に「ただ一つの解」である説明も抜けている。またもや罠である。

 異なる解 x_1,x_2があると \alpha(x_1-x_2)\equiv \alpha x_1-\alpha x_2\equiv \beta-\beta \equiv 0となっているので、斉次方程式 \alpha x \equiv 0\ \pmod{M}\pmod{M}での解の数を数えるのと同じである。

 天下りだが、\alphaを掛けるという写像 \alpha: R/M\to R/M; \ \alpha([x]):=[\alpha x] を考える。(\alpha,M)=Dなので、Im(\alpha)=D/Mになっている。また、|Ker(\alpha)|が求めたい解の数である(∵\alphaを掛けると R/Mの中で0になるR/Mの元の数が異なる解の数だから)。一方、準同型定理から


(R/M) \Big/ Ker(\alpha) \simeq D/M

が成立する。これより、

|R/M| / |Ker(\alpha)| =|D/M|     (1)

一方、同型 (R/M) \Big/ (D/M)  \simeq R/D も成立している(∵これも準同型定理による同型の一つ)ので、

|R/M| / |D/M| =|R/D|      (2)

(1)と(2)から、|Ker(\alpha)|=|R/D|が得られるが、右辺がN(D)に等しいのは定理5.21(p.306)からである □


とはいえ数としては一致しているものの、R/Dという情報だけから具体的に解を構成しているわけではないのが、痛しかゆしというところ。ただ、D=(1)のときは、a\alpha+m=1,\ a\in R,\ m\in Mがあるので、もし\alpha x\equiv 0\pmod{M}なら  x=x(a\alpha+m)=a(\alpha x)+xm \in Mなので、解は一つしかないことが簡単にわかる。



もう一つ p.313に

ノルムがAより小さいイデアルは有限個しかない

とさらっと書かれている。蛇足ながら、ちょっとその上に|N(\alpha)|とか絶対値がご丁寧に書かれているが、イデアルのノルムの規約としては非負になるように定義してあるので絶対値記号は不要そうなのであるが、整数\alphaのノルムというのをN(\alpha):=\alpha \alpha'として(たっけ?)しまうと負にもなりうる。単項イデアル(\alpha)のノルムとは、 N( (\alpha) )=|N(\alpha)|という関係にあるのでそんなに問題ということではないが、なんだか記号の濫用にみえる。それはさておき、イデアルMの標準的基底による表現から M=[a,b+c\omega]とすると、N(M)=acであったから、a,cの組が有限に制限されてしまうのでそのようなイデアルは有限個しかない(∵a,b,c\ge 0,\ 0\le b  <  aという条件があるため)。




そのもう少し下。

しからば \epsilon=\alpha_m/\alpha_nは単数である

ちょと待ったー。単数は定義から整数でなければならない(p.242)。\alpha_m/\alpha_nはぱっと見、整数にはみえないんですが... ちなみに \epsilon \in K(\sqrt{m})N(\epsilon)=\epsilon \epsilon'=\pm 1でも、\epsilonは整数とは限らない。反例は \frac{1-\sqrt{-5}}{1+\sqrt{-5}}=\frac{-2-\sqrt{-5}}{3}など。しかし、ミソは (\alpha_m)=(\alpha_n)である。これから直ちに\alpha_m = a \alpha_nなる整数 aがあるから、\alpha_m/\alpha_n = aは整数となる。