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[数論]二次体の整数環の素イデアルをすべて求める(準備編)
ひさびさの更新である。あんまりまとまって数学の勉強をしていなかったのだが、つらつらと高木貞治先生の『初等整数論講義 第二版』を読んでいる。
私は名著フアンである。本書は確かに味があるのだが何分古い(初版1931年)。現代的な数学書のスタイルに慣れているとステートメントと証明がごちゃごちゃで、ちょっとイラっとするところがある。もし、奇特な方がこの書籍を読まれるとしたら、何かのステートメントの記述のちょっと後に証明が書いてるあることがあるので、自分でギャップを埋めようとする前に1パラグラフ先まで読んでみることをお勧めする。しかし、一つのハイライトである第5章での定理5.18に至るまでの論理の流れがなんのこっちゃわけわからんぐらいとっ散らかっていて、なんだかもったいないので、本書を底本にして整理してみようと思う。Webを調べてみると意外と二次体の整数環の素イデアルをすべて求めるというのは本書ぐらいしか記述がないそうである(ちゃんとは調べてません)。二次体の整数環の定義からスタートする。平方因子を持たない有理整数を一つ固定する。を含んでいるような整数環を次のように定義する。
後に理由を説明するが、のとき、単純なよりもちょっと大きなものを定義として採用している。
さて、この整数環のイデアルの構造は簡単な議論(底本の定理5.6)で決定できて、
<イデアルの構造定理>
このとき はに含まれる最小の正の有理整数で、はの形の元がに含まれるときのの最小の正の有理整数である。
と表現することができる。ここでの記号は中の生成元で上生成されるもの全部という意味だが、この構造定理の付加された条件から自動的にイデアルとなっている。この構造定理を使って、イデアルとその共役イデアル (イデアルの元のの前の符号を変えた元の集合。自動的にイデアルになる)の積が単項イデアルになるという底本の定理5.8が証明される。
この をのノルム と定義する。
さらにこの(*1)の性質を利用して、次のイデアルの包含関係が整除関係と同値であるという底本の定理5.11 が証明される。
をイデアルとするとき、
これらイデアルの構造定理、(*1),(*2)は整数環の著しい性質で、イデアルによる素因数分解の基礎となっている。
さて、先ののときの定義の不思議について述べる。この定義でなければならないという説明は、底本p.283の[注意]に(*1)が成立しないためとあるのだが、いまひとつピンとこないので具体的に(*1)が成立しない例を挙げてみよう。というか底本の例そのもので とする。この表記は上の生成だったことを注意して、今はイデアルの構造定理の成立も怪しいので直接、がイデアルであるを確認する。それは2つの生成元にを掛けたものが、再びに入ることをチェックすればよい。
だからOKである。を計算してみよう。生成元の組みわせから、となるが、できたものは一見したところ単項イデアルではない。もし、これが単項イデアルになるとすると、なる整数が存在しなければならず、可能性としてしかない。まずとなりえないのは右辺で生成される元でが消えるときは整数項は4の倍数であるため、2が右辺に含まれないからである。でないのは、が左辺に含まれないからである(左辺では整数部との前の係数は必ず4の倍数になるため)。にならないのは、が右辺に入ってこないからである。以上より、が単項イデアルにならないということがわかる。(ちなみに整数環の中ではそのものが単項イデアルになっている。)