[数論]高木貞治『初等整数論講義 第二版』第五章ノート その3

 §47で二次体の単数の話題が終わり、直後に怒涛のごとく問題が並んでいる(pp.314-316)。今までは問題の解法の説明もそれなりに親切だったが、5章ではなぜか突き放されることが多いような気がする。早速ギャップを埋めにいってみよう。

[問題1] 実二次体K(\sqrt{m})における基本単数のノルムが-1に等しいためには、mq\equiv -1 \pmod{4}なる素因数 qを有しないことが必要である。

[解] ノルムが-1の基本単数が存在する必要条件は、t^2-du^2=-4 が整数解をもつことである。判別式 dの任意の素因子をqとすれば、t^2 \equiv -4 \pmod{q}. もしここで q\equiv -1 \pmod{4}ならば、『これは不可能である』と高木先生は述べるが、ここでぐっと詰まった。しかし、『このとき』以降に高木先生の後出しヒントがあった。もしq\equiv -1 \pmod{4}ならばq2でないので奇素数であり、(\frac{-1}{q})=-1である(∵第一補充法則 p.74)。一方 t^2 \equiv -4 \pmod{q}は、(\frac{-4}{q})=1を意味するが、1=(\frac{-4}{q})=(\frac{-1}{q})(\frac{4}{q})=(\frac{-1}{q})は矛盾である。


[問題2] 実二次体K(\sqrt{m})における基本単数のノルムが+1に等しいならば、J=(\sqrt{m}) 以外に J=J'なる単項原始イデアルがある.

[解] 基本単数を\epsilonとすると、仮定よりN(\epsilon)=\epsilon \epsilon'=1. これより \epsilon=\frac{1+\epsilon}{1+\epsilon'}. \eta:=1+\epsilonがもし単数だとすると、\epsilon=\frac{\eta}{\eta'}=\frac{\eta^2}{\eta' \eta}=\eta^2. 『これは不合理である』と先生は述べる。不合理である理由は、\epsilonが基本単数だから \eta=\pm \epsilon^kとなっているはずだが、先の式より \epsilon = \epsilon^{2k}が成立するが \epsilon  >  1なので確かにこれは不合理である。J:=(1+\epsilon)とすれば、1+\epsilonが単数ではないので、J\ne K(\sqrt{m}). J=J'であるのは、\epsilon'(1+\epsilon)=1+\epsilon' から 1+\epsilon' \in (1+\epsilon)=J だからである。
 もし J=(a\sqrt{m})だとする(aは有理整数としている)と 1+\epsilon=\eta a\sqrt{m}と書ける(紛らわしいが、前段の\etaとはまた違うものなので注意)。テキストではいきなり 『\etaは単数』との主張がなされているが、「整域の2つの単項イデアルが等しいとき、その生成元は単数の差でしかない」という一般論がある(∵ (a)=(b)としよう。b=xa,\ a=ybなるx,yがあるが、b=xa=xybから 1=xy が出るからである。またノルムが-1でないのは基本単数のノルムが1だからである)。このとき 1+\epsilon'=-\eta' a \sqrt{m}なので \epsilon=\frac{1+\epsilon}{1+\epsilon'}に放り込むと、\epsilon=-\frac{\eta}{\eta'}=-\eta^2. 先と同様の理由でこれは不合理となる。
 よって、J=aJ_0J_0は原始イデアルと分解すると J_0 \neq (\sqrt{m}). さて、もしJ_0\neq J_0'なら x\in J_0, x' \not\in J_0なる xがあるが、ax \in J=J'より ax' \in J=aJ_0\ \because x'\in J_0と矛盾するので、J_0=J_0'

 直後の[注意]によると、『J=J'なる原始イデアル』は有限個しかなく、かつ具体的にすべてを列挙できることがわかる。そのようなイデアルの素イデアル分解を考えると、完全分解(P\neq P')および惰性のときの(P=(p))素イデアルを含むと原始イデアルではなくなる(完全分解のときの素イデアルはその共役と必ずセットで現れる)ためである。一方、分岐するときの素イデアルP=P'; dの素因数から生じるため有限個)も同じ素因子の2つ以上の積を含むと原始イデアルでなくなるため、高々一回しか現れない。

[例] p\equiv 3 \pmod{4}として、K(\sqrt{p})を考える。[問題1]より、これの基本単数のノルムは1。d=4pで[注意]より、J=J'なる原始イデアルは、(2)=L^2なるL(\sqrt{p})(ここに (p)=(\sqrt{p})^2)か、その積 L(\sqrt{p})の3つしかない。
 ここで、L(\sqrt{p})が単項イデアルなら、Lも単項イデアルであることを証明しよう。L(\sqrt{p})=(a)とする。a\in L(\sqrt{p})なので a=x \sqrt{p},\ x\in Lと書ける(イデアルの積は定義から各々の元の積の有限和だがこのケースではまとめるとこの形にできる)。このとき (x)=Lとなっている。(x)\subset Lは明らかなので逆を示す。任意のy\in Lに対して、y\sqrt{p}\in L(\sqrt{p})=(a)より、y\sqrt{p}=za=zx\sqrt{p}なので、y=zxつまりy\in (x)が得られる。
 さて、3つのJ=J'なる原始イデアルのうち、(\sqrt{p})を除いたものなかに単項原始イデアルが存在するという[問題2]の結果と上の考察から、結局のところLが単項原始イデアルでなければならないことがわかる。その生成元をx+y\sqrt{p}とすると x^2-py^2=\pm 2が成立する。
 \pmod{4}で考えると、x^2-3y^2\equiv \pm 2 \pmod{4}. このときx,yの片方でも偶数なら、この合同式は成立しないのでどちらも奇数ということになる。
 \pmod{8}で考えると、p\equiv 3 \pmod{8}p\equiv 7 \pmod{8}となる。

p\equiv 3 \pmod{8}のとき:
  x^2-3y^2\equiv \pm 2 \pmod{8}だが、xが奇数なら常にx^2 \equiv 1\pmod{8}となっているため、左辺は 1-3\cdot 1=-2となる。

p\equiv 7 \pmod{8}のとき:
  x^2-7y^2\equiv \pm 2 \pmod{8}で同様に左辺は 1-7\cdot 1=-6 \equiv 2 \pmod{8}となる。