[数論]二次体の整数環の素イデアルをすべて求める(最終回 計算編)

前回の結果を再掲する。
整数環\mathcal{O}_{K(\sqrt{m})}の0でない素イデアルP

i) P=[p,b+\omega]型のイデアルであり、その存在の必要十分条件p\mid N(b+\omega)であること。

ii) P=(p)型のイデアルであり、その存在の必要十分条件P=[p,b+\omega]型のイデアルが存在しないこと、つまり、p\mid N(b+\omega)がどんなbに対しても成立しないこと。

付け加えると、i)の条件がもし2つ以上のbに対して成立したとしても、どちらも(p)=AA'という形の極大イデアルによる分解となるため、実質的にA,A'の2つ(共役が等しいとき一つ)の素イデアルが得られることになる。なので一つ見つければ十分である。よって、素数pに対して、p\mid N(b+\omega)の解が一つでもあれば、(p)=PP'なるような素イデアルP(あるいはその共役と合わせて最大2つ)、解が無い時 素イデアルP=(p)が得られることになる(ここまで仕掛けがわかると底本のp.p.288-289の議論が何をやっているのか明確になると思う)。

素数pに対して、b0からp-1の範囲を試行すればよいため、計算は有限回で終わる。素イデアルを求めるアルゴリズムとしてはもう十分な気はするが、底本では今後の理論的な展開を見越して、もうすこし計算を進め、平方剰余との関係を求めている。ここでももう少し計算を進めてみよう。

m \equiv 2,3\ (mod\ 4)の場合 (\omega=\sqrt{m}):

N(b+\sqrt{m})=(b+\sqrt{m})(b-\sqrt{m})=b^2-m なので、

p\mid N(b+\omega) \Leftrightarrow b^2\equiv m \ (mod\  p)

最後の条件は、平方剰余の定義に近づいているが、Legendre記号の規約だとp\ne 2とか、p\nmid mでなければならないのでそれらをまず片付ける。
i) p\mid mのとき:
 b=0が条件を満たすので、このときP=[p,\sqrt{m}]P=P'(p)=P^2

ii) p\nmid mかつ p=2のとき:
 (この場合はm \equiv 2\ (mod\ 4)だとi)になるので、m \equiv 3\ (mod\ 4)の場合のみ)
 条件はmが奇数なので、bも奇数たとえばb=1であれば満たされる。このとき P=[2,1+\sqrt{m}]P=P'(2)=P^2

iii) p\nmid mかつ p\ne 2のとき:
条件は(\frac{m}{p})=1と同値になる。これが成立するとき、その解をrとすれば、P=[p,r+\sqrt{m}]。このときP\ne P'である。なぜならP=P'なら、r\pm \sqrt{m}どちらもPの元なので 2rPの元だがこれはpと素なので、Pが1を含むことになり矛盾するからである。
(\frac{m}{p})=-1のときは、P=(p)である。

判別式をd=4mと定義すれば、i)とii)のP=P', (p)=P^2というケース(のちの用語では分岐)をp\mid dとまとめられるので便利なのであろう(平方剰余の条件は変わらない)。ただし、i),ii)で得られる素イデアルの具体的な表示はmが2で割れるかどうかに依存しているということは注意しておきたい。


m \equiv 1\ (mod\ 4)の場合 (\omega=\frac{1+\sqrt{m}}{2}):

N(b+\omega)=(b+\frac{1+\sqrt{m}}{2})(b+\frac{1-\sqrt{m}}{2})=b^2+b+\frac{1-m}{4} なので、

p\mid N(b+\omega) \Leftrightarrow  b^2+b+\frac{1-m}{4} \equiv 0 \ (mod\  p)

 さらに b^2+b+\frac{1-m}{4}=\frac{(2b+1)^2-m}{4}の変形がミソである。

iv) p\mid mのとき:
 この場合、p=2だとm \equiv 1\ (mod\ 4)に矛盾するので、p\ne 2である。4mod\  pで可逆であるため、条件は (2b+1)^2 \equiv 0\ (mod\ p)と同値である。そこで b= -2^{-1} (2mod\  pで可逆)と置けば条件が満たされる。
P=[p,b+\frac{1+\sqrt{m}}{2}]となるが、b+\frac{1-\sqrt{m}}{2}=2b+1-(b+\frac{(1+\sqrt{m}}{2})で、2b+1bの決め方からpの倍数であるので、b+\frac{1-\sqrt{m}}{2}\in P。よって、P=P'で分岐のケースである。

v) p\nmid m かつ p=2のとき:
m \equiv 1\ (mod\ 4)なので m \equiv 1または5\ (mod\ 8)である。
 v-1) m \equiv 1 (mod\ 8)のとき:
  \frac{1-m}{4}は偶数なので b^2+b+\frac{1-m}{4}\equiv b^2+b\equiv 0\ (mod\ 2)。よって b=0で条件を満たすことができる。P=[2,\frac{1+\sqrt{m}}{2}]。もしP=P'なら、\frac{1+\sqrt{m}}{2}+\frac{1-\sqrt{m}}{2}=1Pに属するので矛盾。よってP\ne P'
 v-2) m \equiv 5 (mod\ 8)のとき:
\frac{1-m}{4}は奇数なので b^2+b+\frac{1-m}{4}\equiv b^2+b+1\equiv 0\ (mod\ 2)。しかし、この場合bが奇数でも偶数でもこの条件を満たすことができない。よって、P=(2)

vi) p\nmid m かつ p\ne 2のとき:
 4 mod\ pで可逆であるため、条件は(2b+1)^2 \equiv m\ (mod\ p)と同値になり、また2mod\ pで可逆であることから、r\equiv 2b+1\ (mod\ p)bについていつでも解ける。よって、この条件は(\frac{m}{p})=1と同値になる。これが成立するときは、その解rからbが求められる。iii)でやったのと同じようにもしP=P'ならば b+\frac{1+\sqrt{m}}{2}+b+\frac{1-\sqrt{m}}{2}=2b+1Pに属するが、これはrであるからpと素でありP=(1)という矛盾に至る。よってP\ne P'(\frac{m}{p})=-1の時はP=(p)である。


以上で、底本の定理5.18を再現することができて、ミッション完了である。