岩波 藤崎源二郎『体とGalois理論I』の二章章末問題50

突然だが、藤崎源二郎『体とGalois理論I』岩波書店 を読んでいたりする。これも名著という噂である。
かなり前に入手したものの積読であった。

実はアルティンの『ガロア理論入門』ちくま学術文庫 を読んでいたところ、終盤の『三章 応用』で気持ち悪いギャップがあるように感じて(私の勘違いかも)もうちょっと勉強してみようというのが読み始めた動機である。

体とガロア理論 (岩波基礎数学選書)

体とガロア理論 (岩波基礎数学選書)

惜しいことに、豊富な演習問題があるのに解答もヒントもない。ネットでぐぐっても解答集もないようだ。
しかし、むしろ、やさしめの問題が並んでいると高をくくっていたら、突如、二章章末の問題50で引っかかった。

多項式 X^{2^n}+X+1 (n\ge 3)はF_2[X]において可約である。

これだけである。問題を全部解いてるわけではないが、このシンプルさに引かれて取り掛かってみたが、おおハマリになった。

今回はその顛末である。


まずは、一次因子はないのは0と1をXに入れてみればすぐわかる。そこまで簡単だと問題にはならないわなと思いつつ n=3 の場合を見る。

二次の規約多項式X^2+X+1しかないので、これで割ってみる。

X^8+X+1=(X^2+X+1)(X^6+X^5+X^3+X^2+1)

あれ、なんだもう、できたじゃないか。ところがn=4の場合、X^{16}+X+1X^2+X+1では割り切れない。おやっという感じである。
手計算でX^{16}+X+1を分解しようとしたが、どうにもうまくいかない。それならばと、総当りで因数分解するちょこっと計算のschemeプログラムを書いてみた。


その結果は、X^{16}+X+1=(X^8+X^6+X^5+X^3+1)(X^8+X^6+X^5+X^4+X^3+X+1) である。


手計算では簡単にはできないわけだ。しかし、この因子の複雑さは嫌な予感がする。ちょこっと計算を続ける。

n=5:
X^{32}+X+1=(X^2+X+1)(X^{10}+X^9+X^8+X^3+X^2+X+1)(X^{10}+X^9+X^8+X^4+X^3+X^2+1)(X^{10}+X^9+X^8+X^6+X^5+X+1)

n=6:
\begin{matrix} X^{64}+X+1=&(X^4+X+1)(X^{12}+X^9+X^5+X^2+1)(X^{12}+X^9+X^8+X^5+1)(X^{12}+X^9+X^8+X^5+X^4+X+1)\\ &\times (X^{12}+X^9+X^8+X^6+X^3+X^2+1) \end{matrix}

n=7:
\begin{matrix} X^{128}+X+1=&(X^2+X+1)(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^9+X^7+X^5+X^4+X^3+X^2+X+1)(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^9+X^7+X^6+1)\\ &\times (X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^9+X^8+X^7+X^6+X^2+1)(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^9+X^8+X^7+X^6+X^4+X^2+X+1) \\ &\times(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^{10}+X^7+X^5+X^4+X^2+1)(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^{10}+X^7+X^6+X^3+X+1)\\ &\times(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^{10}+X^8+X^7+X^5+X+1)(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^{10}+X^8+X^7+X^5+X^4+1)\\ &\times(X^{14}+X^{13}+X^{11}+X^{10}+X^8+X^7+X^6+X^4+X^3+X^2+1) \end{matrix}

n=8:
X^{256}+X+1= Xの16次の既約多項式の16個の積


となっていた。この実験の結果からお気づきかと思うが、nが奇数の場合は 因子X^2+X+1を持つので可約である。厳密な証明は \omega^2+\omega+1=0なる\omegaX^{2^n}+X+1Xに放り込んで\omega^3=1を使えば、nが奇数なら\omega^{2^n}+\omega+1=0が出る。

問題はnが偶数の場合であるが、実験結果から見ても、どうも一般的な因子が具体的に求められるとは思えない。


こんなことをつらつらと考え続けて、一ヶ月(これだけをやってたわけではないが、我ながら暇人だと思う)。先日ようやく解決の糸口を得た。F_2[X]の剰余環(体)でのXの位数を調べるのである。


剰余環の中では、X^{2^{2n}}\equiv (X^{2^n})^{2^n}\equiv (X+1)^{2^n}\equiv X^{2^n}+1 \equiv Xが成立している。さらに、剰余環の任意の元はX多項式であり、それを2^{2n}べきすると各項の2^{2n}べきになり、先のXのべきの計算結果から、それぞれもとの項に戻ってしまうので、結局、剰余環の任意の元の位数は2^{2n}-1の約数となる。ところが一方で、題意の多項式を既約と仮定すると剰余環(体)の0でない元の作る乗法群は巡回群で、特に位数2^{2^n}-1の原始元が存在するので、2^{2^n}-1 \le 2^{2n}-1が成立しなければならないが、これはn\ge 3では成立しないので矛盾である。おお、でけた。


とまあ、解決には至ったのではあるが、結局、実験で見たように多少の余りはあるものの、同じ次数の多項式できれいに分解できてしまう理由はわからないままである。この手の演習問題は大抵は海外の有名な本に元ネタがあったりするものなのだが現時点では発見できていない。