前原昭二『数学基礎論入門』朝倉書店

以前にもちらっと参考書として挙げていた本書であるが、冬休みを利用して最初から読みなおしてみた。
昔読んだときは肝心の後半部分を流して読んでいたのだが、『数学基礎論講義をこっそり読む』が第二不完全性定理にさしかかったのでその予習のつもりである。
本書は復刊されているので現在は容易に手に入る。

数学基礎論入門 (基礎数学シリーズ)

数学基礎論入門 (基礎数学シリーズ)

アマゾン書評にもあるように、これは『ゲーデルの原論文入門』ということで、普通の意味の数学基礎論の入門書という性格ではない。モデル理論も出てこない。しかし、9章まで(第一不完全性定理まで)の論述は大変丁寧である。で、肝心の第二不完全性定理はどうかということになると、メタ定理を論理体系の中の定理として再現するという点は分かるのだが、んー、私的にはもうひとつピンとこなかった。メタ定理がなんでもPA内の定理になるわけでもないはずで、そこには何か微妙な差というかくいちがいがあると思うのだが、本書の最後の定理である『定理12.9 原始帰納的な関数や関係はすべて、強い意味で表現可能である』からスタートすればもっとすっきりするような気がする。数学基礎論講義の方でもうちょっと考えてみたい。


以下、半分与太話ではあるが、メタな数学を形式化する際の”表現可能性”というのが問題をはらんでいるらしい。著者が前書きで述べている『それは、第二不完全性定理の成立する条件を、なんとしても明示せざるを得なくなった』に関連する『わたくし自身が未だ解決することのできない1つの根本問題』について、前書きに名前の出てくる林晋氏の本書の書評に面白いコメントがあるのでぜひ読んでみてほしい("ゲーデル本あれこれ "でWeb検索!)。なんだか、物理で古典理論を量子化する際の『自然な対応』という議論とパラレルに見えて、ちょっと面白い。だが、物理屋だったら、都合のいいロッサーのBew*(x)を採用して 『よって無矛盾性が証明された』とやりそうな気がする。なので、たとえば日本語WIKIにあるような第二不完全性定理についての説明『自然数論を含む帰納的に記述できる公理系が、無矛盾であれば、自身の無矛盾性を証明できない。』などとメタレベルで語るのはやはりまずいのである。本書での定理10.1 のように『論理式Consis(K)はKからは証明できない』が正確な語りなのであって、Consis(K)が『無矛盾性』と解釈されるかどうかはまた別の話であるし、数学基礎論講義の方で言われている第二不完全性定理の肯定的な意義(P.99)の適用には、Consis(K)の証明性を直接問題にするため、解釈の必要はまったくないのである(はず...)。