Burnside Ring

ふたたび、Alperin本(Alperin&Bell, Groups and Representations,GTM162)の1.3章の章末問題からである。Burnside Ringの問題がこの章の演習問題中に仕込まれた難問であろう。

有限群Gに対して,G作用のある有限集合Xつまり、有限G-空間Xの同値類の集合を考える。直和によりこれらの同値類の間に和を定義すると,可換半群となる.この可換半群にGrothendieck構成を行って作った可換群を Burnside Ring B(G)と定義する.積の構造は元の可換半群上で、X\times Yに対して,G-作用を(x,y)\to(gx,gy)で定義したものをB(G)に拡張する.これが 有限群Gに対するBurnside Ring B(G)のフォーマルな定義である.この手の理論では,元の群Gの構造と,こうして作ったBurnside Ringという新しいオブジェクトの代数構造にどういう対応がつくかという点に興味があるわけである.

この章の定理により,Xの同値類はその軌道分解により,Gの部分群の有限集合H_iが存在して,[X]=\cup_i [G/H_i] (直和)となっているので,先の可換半群[G/H]の形の同値類(有限個しかない)で生成される.しかも、この直和分解はuniqueなので,Grothendieck構成とか大そうだが,結局のところ、加群としては、B(G)は形式的に[G/H]の形の同値類を生成元とする自由\mathbb{Z}-加群となる.


さて,演習問題である.

演習問題

  1. 部分群H \subset Gを固定して、任意の有限G-空間Xに対して \rho_H(X)=Hの元すべてで固定されるXの元の数』と定義する.これが環準同型 \rho_H:B(G)\to \mathbb{Z}に拡張できることを示せ.また逆に任意の環準同型 \ro:B(G)\to \mathbb{Z}はこの形であることを示せ.
  2. 部分群H\subset Gに対応する準同型\rho_Hの核について,全てのHで共通集合を作ると{0}となる.(\cap_H Ker(\rho_H)={0}.
  3. GN_G(H)=Hになるような真部分群Hを持たないならば,環B(G)は自明でないベキ等元を持たない.

Burnside Ringはその名前の通り,Burnside(Theory of groups of finite order, 1897. 伊藤昇他訳『有限群論共立出版)によって100年以上も前に導入されたのであるが,その代数構造の研究は割と最近のトピックスでもあるようだ.このBurnsideの著作にはもちろんBurnside Ringという呼称は現れないが,第12章でその理論が述べられている.この問題はそこで展開されているmarkの理論で解ける.(この本は用いられている用語や記述方法がやや古めかしく、今では通して読むようなものではなさそうであるが,内容はいろいろてんこ盛りである.)Burnsideのmarkの理論は,英語版wikipediaでの"Burnside ring"の項目と内容としては同じものである.その概要であるが,G-空間としての[G/H]は,Hのconjugacy class で決まるので,Gのすべての部分群のconjugacy classから代表元を選んで(その数をNとする),その位数順に並べたものを{H_i}\quad (1\le i \le N), \quad |H_i|\le |H_j| (i \le j)とする.特にH_1=1, H_N=Gである.
ここでmarkの行列を m_{ij}=\rho_{H_j}([G/H_i])と定義する.
x\in (G/H)^K \Leftrightarrow K\subset x^{-1}Hx であるから特に|K|\le|H|で,行列としてはm_{ij}は下三角行列になる.またその対角要素は m_{ii}=|N_G(H_i)/H_i| \ge 1であるから,m_{ij}は可逆行列となる.また,m_{Ni}=|(G/G)^{H_i}|=1である.


まず,演習問題2はB(G) \ni x=\sum_k a_k [G/H_k]に対して,\rho_{H_j}(x)=\sum_k a_k m_{kj}となるため,『m_{ij}が可逆行列』 からの帰結である.

次に演習問題1の前半はストレートなので,後半のみを示す.a_i=\rho([G/H_i])とすると,\mathbb{Z}-加群の準同型としては,\ro=\sum_{k,l} a_k m_{lk}^{-1} \rho_{H_l}とuniqueに書ける. b_l=\sum_k a_k m_{lk}^{-1}と置くと,\rho=\sum_l b_l \rho_{H_l}である(ただしb_l\in \mathbb{Z}とは限らない).
この関係式に環準同型としての条件 \rho([G/H_i] \times [G/H_j])=\rho([G/H_i])\rho([G/H_j])を課せば,\sum_{l} b_l m_{il}m_{jl}= \sum_k b_k m_{ik} \sum_l b_l m_{jl}を得る.m_{pi}^{-1}m_{qj}^{-1}を掛けて i,jについて和を取れば,b_p \delta_{pq}=b_p b_q を得る.もしb_p \neq 0なるものがあれば,\delta_{pq}=b_qとなり、q\neq pなるqについてb_q=0であるから,高々1つのpについてb_p=1となる.すなわち\rho\rho_{H_p}と一致する.

演習問題3について,ベキ等元をx=\sum_i a_i [G/H_i]とする.ベキ等の条件 x^2=xから,x\rho_{H_j}での像x_j=\rho_{H_j}(x)=\sum_i a_i m_{ij}は 0か1であることが分かる.x_Nを計算してみると m_{NN}=1以外のm_{iN}は0なので,x_N=a_Nとなり、a_Nは0か1である.次にx_{N-1}=a_N+a_{N-1} m_{N-1 N-1} となるが,仮定よりm_{ii}=|N_G(H_i)/H_i| >1 \quad (i\neq N)であるため,a_Nが0でも1でも,a_{N-1}=0でなければならない.以下同様の議論で a_i=0 \quad (i\neq N)となる.従って,x=0またはx=[G/G]=1となる.証明終了


またオマケ情報として,Burnside Ringについて調べていておやっと思ったものは次のような結果である.

 B(G) \simeq B(G') \Rightarrow |G|=|G'| (PlanetMath.orgより)
つまり Burnside Ringが環同型なら元の群の位数は等しい.

Gが可解群 \Leftrightarrow B(G)は自明でないべき等元を持たない (Dress 1969)

この最後の結果(演習問題の3番目のかなり強い形)であるが,B(G)の可逆元の全体の集合(群になる)をB^*(G)とするとき, もし,べき等元eがあると e^2=e \Rightarrow (2e-1)^2=1 \Rightarrow 2e-1 \in B^*(G)なので,『B^*(G)=\{\pm 1\} \Rightarrow B(G)は自明でないべき等元を持たない』が従う.一方,Feit-Thompsonの定理は,|G|が奇数ならばGは可解群という主張であったから,もし|G|が奇数ならばB^*(G)=\{\pm 1\} ということが独立に証明できれば,これはFeit-Thompsonの定理の別証となりうるわけである.