演習問題

O'Brien論文の解読作業がもうちょっと先の方で停滞しているので,ちょっと別のネタを.
もともとFT定理本を読もうという目論見で,その準備と称して有限群論やら表現論やらの本を買い込んでは放置してあるのだが,その中で Alperin & Bell 『Groups and Representations 』 Springer 1995 というのを最近読み始めている.その中でしょっぱなの第一章の章末問題に面白いのがあったので紹介したい.

問題
rst を1より大きい任意の3つの整数とする.


このとき有限群Gとその元x,yが存在してxyxyの位数が各々rstとなっているものが存在することを示せ.

勝手な3つの整数でこのような有限群とその元が存在するというのが面白い.有限群というところがミソでこれが無ければ,[tex:G=\]が答えの一つなので面白みがない.

たとえば r=s=2 としておくと、どんな大きなtを取ってきても,それが位数2の元xyの積 xy の位数となるようなものが存在するということである.なかなか不思議な感じがする.実は上の定義でr=s=2の場合はたまたま有限群になってしまう(それ以外のケースは大抵無限群となる)のであるが、もう少し幾何学的(?)な実現を考えてみた.


まず2t個の点をt個ずつ、2列に並べる.列の点に順に番号を1からtまで付けて,1t列と1't'列としておく.並んでいる点 nn'を入れ替える置換をxとし,ひとつずれた点n(n+1)' を入れ替える置換をyとする(t1'と入れ替える).するとxyの作用は、(左から作用させたとして)ダッシュなし列では1つ前へずらし、ダッシュ付き列では1つ後ろへずらす置換となるためその位数はtとなる.


t個の互換の2つの積がバケツリレーのようにつながり,2つのt次巡回置換を生成している.
では演習問題の一般の場合はどうなるか?というわけであるが,実は私はまだこの問題解けていないのだ.r次とs次の巡回置換のそれぞれt個の複製から上のような構成の拡張でできそうな気がするのだが...いましばらく楽しめそうである.


話は少し変わるが,インターネット上には面白い有限単純群のデータベースがある.ATLAS
データの内容からすると専門家(と愛好家)向けと思われる.各有限単純群の Standard generators というところをつらつらとながめていると奇妙なことに気づく.データベースにある有限単純群はどれもこれもたったの2個の元から生成できるようだ(全部は確認していないが,すくなくとも散在型単純群ではそうなっている.なぜ2個なのかはよくわかっていないとどこかで読んだような記憶がある). モンスター群Mのところを見ると,位数2と3の2つの元(それらの元の積の位数は29)から生成されるということであるから,これはつまりはモンスター群Mが[tex:G=\]という(無限)群の商群になっていることを意味する.一見つまらなく見えるGがモンスター群Mのような巨大で複雑な構造を内包しているというわけである.演習問題侮りがたし.