数学基礎論講義をこっそり読む(その4)

今回は結構悩みました。p.38 辺りです。まずは系3.11のメモから。


『次の系は上の定理からただちに導かれる』とあるのですが、そこが第一の悩みポイントでした。分かってしまうとなーんだということになるのですが、系3.11の条件の下で、(\forall xは複数のxの略記と理解してください。)

T'=T\cup \{ \forall x \forall y(\varphi(x,y)\leftrightarrow  f(x)=y)\}

T''=T\cup \{ \forall x \varphi(x,f(x))\}

としたとき、実は T'T''は同値(お互いに他方の定理を導ける)で、T''が定理3.10より、Tの保存的拡大なので、T'もそうなるということです。


同値になることの証明:
T'\supset  T''は、\forall x \forall y(\varphi(x,y)\leftrightarrow f(x)=y)から\varphi(x,y)\leftrightarrow f(x)=yを得て、y=f(x)と置くと\varphi(x,f(x))\leftrightarrow f(x)=f(x)f(x)=f(x)は公理なので、左向き矢印から\varphi(x,f(x))となり、xについて一般化法則を適用すれば \forall x \varphi(x,f(x))を得る。

T'\subset  T''は、公理 f(x)=y\rightarrow (\varphi(x,f(x))\rightarrow \varphi(x,y))より、(f(x)=y\rightarrow \varphi(x,f(x))\rightarrow (f(x)=y\rightarrow \varphi(x,y))が証明できる。
一方、\varphi(x,f(x))は証明できるので、f(x)=y\rightarrow \varphi(x,f(x))も証明でき、結局、f(x)=y\rightarrow \varphi(x,y)が証明できる。
反対向きは、仮定によりTから証明される\varphi(x,y')\wedge\varphi(x,y)\rightarrow y'=yは、\varphi(x,y')\rightarrow(\varphi(x,y)\rightarrow y'=y)その2 の導出を参考)に同値なので、特にy'f(x)を代入すると、\varphi(x,f(x))\rightarrow(\varphi(x,y)\rightarrow f(x)=y)となり、\varphi(x,f(x))は証明できるので、\varphi(x,y)\rightarrow f(x)=y。後は\wedgeで結合して一般化すればよい。□


さて、その次の\psi^{-f}が私的には問題でした。いや、テキストに書いてあることはまあまあ納得できるのですが、その前提になっているのが T\vdash \forall x \exists !y\varphi(x,y)であって、どうしてT\vdash \forall x \exists y\varphi(x,y)ではまずいのかという点が第二の悩みポイントでした。\psi^{-f}の作り方は別に問題は無いので、結論である T'\vdash \psi \leftrightarrow \psi^{-f}が成立しないような反例があるに違いないと...


これも分かってしまうとなーんだなのですが、反例は\theta(x,y)\equiv \varphi(x,y)として、得られる \exists y\varphi(x,y)\leftrightarrow \varphi(x,f(x))は一般には成立しません。このことは例の『ある形式体系Tにおいて、\exists x\varphi(x)が証明できても、\varphi(t)が証明できるような、あるtが存在するとは限らない』(その3を参考)を使って、\varphi(x,y)\equiv \varphi(y)とすればよいです。\exists y\varphi(x,y)は証明できるので、\varphi(x,f(x))が証明できることになって、矛盾します。
ちなみにさらに存在の唯一性があると、エルブランの定理を経由して、\varphi(x,t)が証明できる項tの存在が証明できるので、上記のような問題は発生しないという理屈になります。


しかし、妙な反例は全て、証明も反証もできない命題の存在から発生しているようで、とても興味深いです。