特別企画 小林・益川論文を読む! −その3

ではKM論文の続きに入る.

1ページ目の終わりからKM論文でのモデルが提出される.KM論文での論理の流れとしては,牧らの強い相互作用を扱ったquartet modelに対して,弱い相互作用をゲージ群を SU(2)\times U(1)とするゲージ場として導入するということであるが,その基礎になっているのが Weinberg's original model である.これは 先立つ1967年に発表された電磁力と弱い相互作用を統一する Weinberg-Salam理論である.このWS理論は発表当時は u,d,sのみを含む理論であったが,その後'70年代のはじめにかけて,先に出てきたFCNCの問題を解決するためのGIM機構に必要なcクォークを含むように拡張されている.しかし,そうなるとKM論文でのquartet modelとWS理論との(少なくとも弱い相互作用の部分の)違いがよく分からなくなってくるのであるが,事実,KM論文で論じられていることはそのままWS理論にも適用できるため,u,d,s,c クォークのみのWS理論の枠内ではCP対称性を破り、かつ繰り込み可能な理論は(余分な場を導入しないことには)作れないという結論が成立する.そのロジックを追いかけてみる.


まず,quartet model の4重項(のそれぞれのRとL成分)を弱い相互作用SU(2)の表現とみたとき,可能なのは
A) 4=2+2
B) 4=2+1+1
C) 4=1+1+1+1
であるとしている.ここに3次元以上の表現が現れないのはquartetの電荷の割り当てから来るとなっているが,もう少し詳しく説明してみる.WS理論でのゲージ群SU(2)\times U(1)SU(2)の量子数(の一つ)にアイソスピンのZ成分I_zがあり,またU(1)に対応する量子数はハイパーチャージYと呼ばれている.これらの量子数と電荷Qとは Q=I_z+Y/2という中野・西島・ゲルマンの法則で結びつけられている.さて,ゲージ群がSU(2)U(1)の直積であるということはSU(2)の元とU(1)の元は可換であり,このことからSU(2)の多重項を作る粒子のハイパーチャージYはすべて同じでなければならない.もし,その多重項が3次以上のものであれば,そのI_z成分は3種類以上になり,関係式Q=I_z+Y/2Yが一定であるから,電荷Qも3種類以上となる.このことはquartet modelの電荷の配分(Q,\quad Q-1,\quad Q-1.\quad Q)が2種類の電荷量しかないことに矛盾してしまうのである.
さて,chiral理論であるから,R成分とL成分おのおのに別のSU(2)表現が割り当て可能で,一つの成分は上記のA,B,Cの3通りであるから,合計9通りの組み合わせがあることになる.この組み合わせのうち(C,C) はSU(2)対称性を導入しないのと同じなので除外するとして,さらに(B,C)および(C,B)も排除されるとしている.ゲージ場との相互作用項の形は運動項をゲージ化したときに生じる\bar{\Psi}\gamma^\mu A_\mu \Psiという形であるため,かならず\bar{R}Rもしくは\bar{L}Lという組み合わせになっている.たとえば(B,C)のケースではu,d クォークのL成分はu,dの\bar{L}成分としか組めず,KM論文で言うところの"all members of the quartet should take part in the weak interaction" という要請を満たせなくなってしまうということであろうか.たとえばdクォークのR成分が、直接にsの\bar{R}成分に結合するとFCNC問題が生じるが,おそらくこの組み合わせではGIM機構に似たことができないという理由からであると思われるが,詳しくはよく分からない.
また,残る組み合わせのうちでも,たとえば(A,B)と(B,A)はweak currentすなわち相互作用項の符合が違うだけということになるが,そのどちらなのかは(P対称性がどっちに破れているのか)は現実の物理現象が従う"dynamical problem"であるとしている.以下の理論的考察ではどちら同じということでV-A型(R側にsingletが現れる)の方のみを調べることになる.

以上が2ページの終わりあたりまでである.(今回はいろいろ怪しい箇所が多かった)