特別企画 小林・益川論文を読む! −その5

あまり悩んでいてもしょうがないので,手を動かしてみることにする.

ゲージ場と物資場の相互作用項は,もとは物資場の運動項から生じるのであるから,最初に物資場の運動項の形を決めておく必要がある.論文には明示的には書かれてはいないが,ゲージ不変の要請から運動項は,
\mathcal{L}_{kin}= \sum_{k=1,2}(\bar{L_{dk}} i \not\partial L_{dk}+\bar{R_{sk}^{(p)}}i \not\partial R_{sk}^{(p)}+\bar{R_{sk}^{(n)}}i \not\partial R_{sk}^{(n)}   ) (ここにL_{dk}=\begin{pmatrix}{L_{dk}^{(p)}}\\{L_{dk}^{(n)}}\end{pmatrix})となる.

これにゲージ場\not {A}を導入して,相互作用項を出すのであるが,Rはsingletであるからゲージ変換で変わらず,結局
\mathcal{L}_{weak}= \sum_{k=1,2} \bar{L_{dk}} \not {A}  L_{dk}
だけとなる.この項を電荷ごとに分解してみる.そのために,SU(2)のリー環の生成元を
i\sigma_1=i\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},\quad i\sigma_2=i\begin{pmatrix}0&-i\\i&0\end{pmatrix},\quad i\sigma_3=i\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}と選んでおいて,
{A_{\mu}}=\sum_j A_{\mu}^{j} \sigma_j と分解する. (物理では iA_\muリー環の元になるような規約を設けている.これにより,各A_{\mu}^{j}は実の場であることになる.)また,\sigma_+=\frac{\sigma_1+i\sigma_2}{2}=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\quad \sigma_-=\frac{\sigma_1-i\sigma_2}{2}=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}を導入して,
{A_{\mu}}=\sum_j A_{\mu}^{j} \sigma_j=A_{\mu}^{+} \sigma_+ + A_{\mu}^{-}\sigma_- +A_{\mu}^{3} \sigma_3と分解する. ここにA_{\mu}^{+}=\frac{A_{\mu}^{1}+iA_{\mu}^{2}}{2},\quad A_{\mu}^{-}=\frac{A_{\mu}^{1}-iA_{\mu}^{2}}{2}は,複素場である.

この分解を利用すれば,
\mathcal{L}_{weak}= \sum_{k=1,2} \{ A_\mu^{+} \bar{L_{dk}^{(p)}}\gamma^\mu L_{dk}^{(n)}+{A_\mu}^{-} \bar{L_{dk}^{(n)}}\gamma^\mu L_{dk}^{(p)} + {A_\mu}^{3} (\bar{L_{dk}^{(p)}}\gamma^\mu L_{dk}^{(p)}-\bar{L_{dk}^{(n)}}\gamma^\mu L_{dk}^{(n)})\}
となるが,これを見れば,A_\mu^{+}A_\mu^{-}A_\mu^{3}がそれぞれ電荷 +1,-1,0のゲージ場,すなわちウィークボゾン \mathrm{W}^+\mathrm{W}^-\mathrm{Z}に対応することがわかる.


あとは前回の関係式
q_{k}^{(a)}=\begin{pmatrix} R_{sk}^{(a)}\\ L_{dk}^{(a)} \end{pmatrix}, \begin{pmatrix} q'_1^{(a)}\\ q'_2^{(a)}\end{pmatrix}=S^{-1}_{(a)} \begin{pmatrix} q_1^{(a)}\\ q_2^{(a)}\end{pmatrix},(p\quad n \quad \zeta \quad \lambda)=(q'_1^{(p)} \quad q'_1^{(n)} \quad q'_2^{(p)} \quad q'_2^{(n)})
を使って,(p\quad n \quad \zeta \quad \lambda)で書き直せばよい.

まず,L成分への射影演算子\frac{1+\gamma^5}{2}を使うと,

\mathcal{L}_{weak}= \sum_{k=1,2} \{ A_\mu^{+} \bar{q_{k}^{(p)}}\gamma^\mu \frac{1+\gamma^5}{2} q_{k}^{(n)}+{A_\mu}^{-} \bar{q_{k}^{(n)}}\gamma^\mu \frac{1+\gamma^5}{2} q_{k}^{(p)} + {A_\mu}^{3} (\bar{q_{k}^{(p)}}\gamma^\mu \frac{1+\gamma^5}{2} q_{k}^{(p)}-\bar{q_{k}^{(n)}}\gamma^\mu \frac{1+\gamma^5}{2} q_{k}^{(n)})\}

となる.

このうちA_\mu^{3}の項を見てみると,関係式\begin{pmatrix} q'_1^{(a)}\\ q'_2^{(a)}\end{pmatrix}=S^{-1}_{(a)} \begin{pmatrix} q_1^{(a)}\\ q_2^{(a)}\end{pmatrix}で,S{(a)}はユニタリ行列であったから,不変式 \sum_{k=1,2}\bar{q_{k}^{(a)}}\gamma^\mu \frac{1+\gamma^5}{2} q_{k}^{(a)}=\sum_{k=1,2}\bar{q'_{k}^{(a)}}\gamma^\mu \frac{1+\gamma^5}{2} q'_{k}^{(a)}が成立する.よってこの和の形はダッシュがついても変わらない.与式には (pの和)−(nの和)という形で現れている.

これはつまり,論文との対応で言うと\Lambda_3=\begin{pmatrix}1&0&0&0\\0&-1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&-1\end{pmatrix}となる.論文の結果とは異なっているが,おそらく元論文の誤りでないかと思う.K^{-1}\Lambda_3 KKでの変換を忘れたか,qの成分の順番の勘違いと思われるが,S(a)等による混合が影響しない部分であるので,大した違いはない.しかし,この項の形は重要である.中性ウィークボゾンA_\mu^{3}と結合するのが,中性カレントであり,初回に述べたFCNCを抑制するGIM機構とは,正に上の不変式の中にフレーバを変化させる項が無いということである.クォークのペアがいくつあっても,それらをユニタリ行列で混合するかぎり,GIM機構が機能することが読み取れる.


次回,A_\mu^{+}の項がうまく計算できたら,大団円?!