なぜ有限群なのか?

この日記は、私 kazu_FGFが趣味で気ままにやっている有限群の勉強の励みにしようと、お気楽に始めてみるものである。とはいえ、自分でも忘れてしまわないように、なぜ有限群なのか?という動機について初めに述べておきたい。話し出すと長くなるので結論を先に言うと、ずばり目指す究極のターゲットはモンスター群である。


『なんだかモンスター群というすごいものがあって、周りに月光を放っているらしい!』
そういう噂を偶然Webで聞きつけて、すこし調べていくと、モンスター群の周辺にはムーンシャイン(月光)現象と名づけられた怪奇現象が起こっているというのである。
モンスター群というのは、散在型単純群と呼ばれる有限群のなかで、その位数が最大のものであり、具体的には 808,017,424,794,512,875,886,459,904,961,710,757,005,754,368,000,000,000 と目も眩むほど巨大な位数を持っている。この群は1973年にFisherとGriessが存在を予想し、1982年にGriessが構成方法を示すことで存在を確定させたものである。
まーいったいこんなでっかい群をどうやって構成するのかというのも興味をそそられるが(ちなみにこれほど巨大になるとコンピュータも役に立たない)それはさておき、この群の既約表現の次数は小さいものから 1、196883、21296876、842609326、... と続いていくが、1979年にMcKayはj(x)と呼ばれる基本的な保型関数フーリエ変換のベキ級数展開


j(q)=1/q+744+196884q+21493760q^2+864299970q^3+...


に現れるqの正のベキの係数が順に 1+196883、1+196883+21296876、2*1+2*196883+21296876+842609326、...と、モンスター群の既約表現の次数のいくつかの和になることに気がついた。これは衝撃的である。というのはモンスター群という一見人工的で、でかすぎて扱いに困るような代物と、100年以上も前から知られていて、数論に深くかかわる古典的な関数とがなんだかわからないがつながりがあるというのである。
MckayとTompsonはこの現象について数学的な予想を立てたが、ConwayとNortonはさらに深い予想を立て、この現象をムーンシャインと呼び、解明を広く呼びかけた。
そしてこれらの予想は1992年にBorcherdsによって解決されることになるが、そこで使われた数学的道具が頂点作用素代数という素粒子物理学の先端である弦理論に関わるものであったから、モンスター群と数論のミッシングリンクは弦理論であるという非常にキャッチーな事態が発生したわけである。


そこでさっそく

モンスター―群のひろがり

モンスター―群のひろがり

で下調べしてみたが、これはまったく歯が立たない(self-containedではありませんとちゃんとあとがきに書いてある)。というか実際のところモンスター現象は有限群論でも(たぶん)最先端なわけで、素人がおいそれと手出しできるものではないと悟ってしまった。しかし、いろいろと調べ物をしたおかげで有限群論プロパーな話題でいろいろと楽しそうなものが見つかった。モンスターは究極の目標としても、中間ゴールを設定するのは悪くないと思い、選んだのがFeit-Thompson定理の攻略である。
このFT定理とはなんぞやという解説を始めるとまたまた長くなるので機会を改めるが、即物的には約300ページほどの本を読めばいいのである。単純群の分類が2000ページを超えるらしいのでまだリーズナブルという判断である。


というようなわけで、当面はFT定理を目指してゆるゆると勉強していこうという趣旨である。その勉強がてら、興味をひかれた有限群ネタについてつらつらとつづっていきたい。