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[集合論]気づいてしまったシリーズ - 順序数の減算編
いままでさらっと理解したつもりが、ある時気づいてウッとなってしまったことを紹介するコーナーである.今回は、順序数の減算編.さて、順序数の和 は順序数で、次のような再帰的な定義である.
(ii)
(iii) が極限順序数のとき、
この定義で(iii)だけが、ちょっとわかりにくいが と書き直しておけば、右辺が『順序数の集合の和集合は順序数になる』ことから順序数であることがわかるし、計算も便利である.ここまでは曖昧なところはどこにもない.
次に順序数の減算に相当する次のような定理がある.
定理: ならば なる順序数が唯一存在する.
<証明>
加法の性質 『』を既知とすれば、唯一性はこれからでるので存在のみを示す.に関する超限帰納法を使おう.のとき、が存在しないのでこの場合は自動的に命題は成立する.気持ち悪いなら、から始めてもよい.次にの場合、かだが、前者ならでよい.後者なら、超限帰納法の仮定より なるが存在するが、より、OK.が極限順序数のとき、超限帰納法の仮定から に対して、なるようなが存在する.は順序数で、 となり、に対しても成立するため、超限帰納法より定理が成立する.□
自作の証明だが、何も悪くなさそうである.しかし、一点だけ穴があることに気づいてしまった.それはである.何がいけないのか.は順序数で、は確定している.一方、右辺は順序数の集合のSupなので、これも確定した順序数を与える.しかし、これが一致するかどうかは自明でないのである.一見すると順序数の和の定義の(iii)がよく似ているので、納得しそうになってしまうが、① が極限順序数かどうか明らかでない、② Supを取る集合が定義とはそもそも似て非なるものである、といろいろマズい.
これからこれらの点を解消するための冒険にでるわけだが、結論を先に言っておこう.①はが極限順序数ならば、も極限順序数.②、①とは無関係に一般的に任意の順序数の集合に対して、.なので一応、証明は正しいことがわかる.
まずは①を示そう.ちなみに『が極限順序数 』を使う.これの証明は、と書けると右辺に反するので、()はよい.が極限順序数(後続順序数でない)かつ、右辺の否定 が成立するとかつ から または が出て矛盾である().
さて、としよう..一方、で、これに右から 1 を加えると、 (∵最後の不等式はが極限順序数であるから).よって、.同じことをもう一度やれば、 が得られるが、から、が極限順序数であることがわかる.
つぎに②を示そう.は極限順序数とは限らないので次の2つの場合に分ける.
と書けるが、なので.このときtransitivityから でもあるので、なので、より .そこで証明したい式の右辺について .一方、より なので、は成立している.
(ii) が極限順序数のとき:
この場合でも、なるものが存在していると、(i)の後半と同じく、簡単にが成立することがわかるので、と仮定しておこう.は和の定義の(iii)から、に等しいが、これより直ちに②の右辺=がわかる.もし、この最初の不等号で=が成り立たないとすると、
なので、が成立するような が存在する.よって でなければならないが、これより は矛盾である.□
さて、Jech本にはこの定理の証明はヒントしかなくて『の順序型をとせよ』とある.これ結構、謎のヒントである.私が困ったときによく参考にしている StackExchangeでもこのヒントをコピペしただけの解答に『その証明が知りたいんだよ!』と怒っている人がいるぐらいで役に立たなかった.それでも超限帰納法でできるとのヒントもあったので先の証明をひねり出してみたわけである.とはいえJech本のヒントに沿った証明も考えてみたが、順序同型 が存在してもいまひとつこの仮定が使いにくいのである.しかし、よくよく考えるとこのはならばに一致しなければならないはずである.ただ、現時点ではが全射かどうか(そもそも値域からはみ出ていないかすら)分かっていないわけである.
<別証明>
まず、 とがから順序数のクラスへの写像として等しいことをまでの超限帰納法で証明しよう.まず、である.なる について が成立したとする.が後続順序数で とすると、.だが、なるような は存在しない(∵ から または はいずれも矛盾)ので が順序同型であることから の間には順序数は存在せず、.もし、この後ろの等号が成立しないとすると となるが、これが成り立たないことは先にみたので、 で が成立する.最後にが極限順序数のとき、で は加法の定義.一方、より、(∵推移性).よって、.ここで等号が成立しない場合は、となるが、としたとき、が極限順序数だったので、なる順序数 が存在する.を掛けると だが、は加法の単調性に矛盾する.よって、となって超限帰納法が完成する.
さて、を証明しよう.もし、なら、なので とすると、は矛盾である.としよう.すなわち だが、が後続順序数でも極限順序数でも、でなるものが存在する(∵ なら .なら ).これは の像がに入っていないことになり矛盾である.よって、 □
確かにこれは長い...