Awodey『圏論』第6章その1(6.2まで)

本書も半分ぐらいに差し掛かってきて、難しくなってきた."証明は読者への練習問題とする"という言い回しも増えてきたような気がするが、trivialなものを除き入門書ではせめて章末の練習問題にして、略解でも載せて欲しいと思う...間違った理解のまま先に進んでしまい、後でわけわからんようになるというのは経験上よくあることで、特に圏論だと概念よりその例の理解の方が難しいからなおさらだと思うのだが...

自分のためにも読者への宿題をいくつか解いてみた.

p.140
Q^PはωCPOである.<証明>
Q^Pの任意の鎖を\{f_n\}とする.任意のp\in Pに対して、\{f_n(p)\}Q^Pにおける半順序の定義により鎖となり、QがωCPOであることからQ内に余極限を持ち、それをf_\omega(p)と表記する.次の1),2)を示す.
1) 対応 f_\omega:P\to Qは単調である.
 Pの任意の元p,p'について、p\lep'とする.f_n(p) \le f_n(p')であることと余極限f_\omega(p')の定義より f_n(p) \le f_\omega(p'). これからf_\omega(p)の普遍性より、f_\omega(p) \le f_\omega(p'). □
2) 対応 f_\omega:P\to Qはω連続である.
 \{p_n\}をPの任意の鎖とし、その余極限をp_\omegaとする. 1)より、\{f_\omega(p_n)\}はQの鎖となるが、この余極限αがf_\omega(p_\omega)に一致することを示せばよい.f_\omega(p_n) \le f_\omega(p_\omega)は成立しているので、\alpha \le f_\omega(p_\omega).
一方、f_m(p_n) \to f_\omega(p_n) \to \alphaと自然な射を連結し、mを固定してnの余極限をとると、f_mはω連続であるから、普遍性より 射f_m(p_\omega)\to \alphaが存在し、さらにmについて余極限をとると f_\omega(p_\omega) \le \alpha. □


\epsilonはω連続である.<証明>
Q^P \times Pの鎖を(f_n,p_n)とする. Qの鎖\{f_n(p_n)\}の余極限αが f_np_nそれぞれの余極限f_\omegap_\omegaの評価値
f_\omega(p_\omega)に一致することを示せばよいが、これは上記の証明と同様の手法で証明できる. f_n(p_n)\to f_n(p_\omega) \to f_\omega(p_\omega)より \alpha \le f_\omega(p_\omega). 一方、k=max(m,n)として、f_m(p_n) \to f_k(p_k) \to \alphaが定義できるが、これはmを固定すると鎖であり、f_mがω連続であることを使うとf_m(p_\omega) \to \alphaが誘導され、つぎにmについて余極限をとることでf_\omega(p_\omega) \to \alphaすなわち f_\omega(p_\omega)\le \alphaが得られる. □


fがω連続ならば、\tilde{f}もω連続である.<証明>
Xにおける任意の鎖を\{x_n\}、その余極限をx_\omegaとする。任意のp\in Pについて、(x_n,p)X\times Pの鎖であり、その余極限は(x_\omega,p)である. fがω連続なので、\{f(x_n,p)\}の余極限はf(x_\omega,p)に一致する. 一方、\tilde{f}(x_n)(p)=f(x_n,p)であることとQ^Pにおける余極限は点別であったことから、\{\tilde{f}(x_n)\}の余極限は\tilde{f}(x_\omega)に一致し、\tilde{f}はω連続となる. □


p.142
・グラフの圏Graphsはデカルト閉圏であることを確認せよ.
二項積と冪の普遍性を確かめろということである. 余談だが、少なくとも私にはGraphsでの積と冪を図に描いて理解するというようなことはできそうにない. 冪についてはp.142の上段にそれらしいことが書いてあるが、私はさっさとあきらめてしまった. 本質的なのは、下の証明にあるようにf:F\times G\to Hとその転置\tilde{f}:F \to H^Gの対応を自然なものにするために冪のグラフとしての構造が決まっているという点にあると思う.
ここでは、冪の普遍性のみを証明する.<証明>
任意のグラフAとグラフ準同型f:A \times G \to Hを取る. Aの頂点aを固定すると写像f(a,-): G_v \to H_vが決まる.この写像は定義より(H^G)_vの元であり、写像\tilde{f}_v: A_v \to (H^G)_vを定める. 同様にAの辺c:a\to bに対して、写像f(c,-): G_e \to H_eが定まる. しかもこのとき、fがグラフ準同型であることから、s\circ f=f\circ s, t\circ f=f\circ tが成立しており、これよりs\circ f(c,-)=f(s(c),s(-))=f(a,s(-)),t\circ f(c,-)=f(t(c),t(-))=f(b,t(-))となり、これは\varphi=f(a,-),\psi=f(b,-),\theta=f(c,-)として p.141の最下段の図式を可換にする. これよりf(c,-)写像\tilde{f}_e: A_e \to (H^G)_eを定義していることになる. \epsilon\circ (\tilde{f}\times 1_G)=f\tilde{f}の作り方からほぼ自明であるので、唯一性を示す. 別の\tilde{g}:A\to H^G\epsilon\circ (\tilde{g}\times 1_G)=fなるものがあったとする. \tilde{f}=\tilde{g} \Leftrightarrow \tilde{f}_e=\tilde{g}_eなので\tilde{f}_e \neq \tilde{g}_eとするとc\in A_e\tilde{f}_e(c) \neq \tilde{g}_e(c)なるものが存在する. また (H^G)_e \subset Hom(G_e,H_e)であるから、e\in G_eが存在して、\tilde{f}_e(c)(e) \neq \tilde{g}_e(c)(e)となる. ところが左辺は\tilde{f}_e(c)(e)=\epsilon(\tilde{f}_e(c),e)=f(c,e)であり、右辺も\epsilon(\tilde{g}_e(c),e)=f(c,e)となり、矛盾である. □


p.145
\tilde{f}=f^A\circ \eta

<証明>
f^Aの定義より、\epsilon\circ (f^A \times 1_A)=f\circ \epsilon.これの前に \eta \times 1_A: Z\times A \to (Z\times A)^A \times Aを合成すると左辺は\epsilon\circ (f^A \times 1_A) \circ (\eta \times 1_A)=\epsilon\circ(f^A\circ \eta \times 1_A). 右辺はf\circ \epsilon \circ(\eta \times 1_A)=f\circ (1_Z \times 1_A)=f. よって、\epsilon\circ(f^A\circ \eta \times 1_A)=fとなるが、\tilde{f}の一意性により、\tilde{f}=f^A\circ \eta. □


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ここまでの範囲での誤訳は一箇所です。

p.145 3行目

 誤『この帰結により、転置の一意性が得られる.』
 正『転置の一意性により、この帰結が得られる.』
 原文『The result follows by the uniqueness of transposes.』

 まーありがちな誤訳ですが...数学的には変ですよね.