[集合論] Alephs(Jech本p.29)

 cardinalはもともとは集合の同値類として定義されているが,その代表元を順序数から選びたいという流れである.ただし選択公理を使った議論は5章を待てということらしい.まずは順序数の中で同じcardinalityを持つもののクラスの最小元として基数(cardinal number)を定義する.テキストではこれに同値な定義として,
順序数\alphaが基数\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow} \forall \beta < \alpha (|\beta|\neq |\alpha|)
としている.
 冒頭部分に『すべての無限なcardinalは,極限順序数である』と書いてあってアレ?と思うが,この節でのcardinalとは先の順序数の基数(cardinal number)のことなのでまだ選択公理を使った一般的なcardinalの議論をしているわけではない.というわけで,このステートメントは『\omega < \alphaなる後続順序数\alphaは基数にはならない』ということを言っているだけである.この証明を補足しておく.\alpha=\beta+1=\beta \cup \{\beta\}として,|\alpha|=|\beta|を示す.対応は次の様である.

g:\alpha \to \beta;\ \ g(x) = \begin{cases} 0  & \mbox{if }x=\beta, \\ x+1 & \mbox{if }x < \omega, \\  x & \mbox{otherwise.} \end{cases}

(前にも使った,ひとつずらして隙間を作る手法である)

<Lemma 3.4.>

(i)任意の順序数\alphaよりも大きい基数が存在する
(ii)Xを基数の集合とするとき,sup\ Xは基数である.

<証明>
 (i) 任意の集合Xに対して,順序数h(X)を次のように定義する.

h(X):=min\{\alpha \in Ord: \mbox{there is no one-to-one function }\alpha \mbox{ into X}\}

これはXの濃度より大きい濃度をもつ最小の基数の意である.もちろんひょっとするとこれは空かもしれないわけだが,テキストp.29の最後に次のような説明があって,これが空でないと言っている.

”There is only a set of possible well-orderings of subsets of X. Hence there is only a set of ordinals for which a one-to-one function of \alpha into X exists.”

かなりの謎の呪文だが,和訳しつつ解読を試みてみよう."There is only a set"を『は高々集合である』と解釈すれば(直訳は『ぽつんと集合がある』)数学のステートメントらしくなる.解読結果は,『Xの部分集合とその上に可能なwell-orderingの(部分集合とその上のwell-orderingの両方を動かしたときの)全体は高々集合である.よって,\alphaからXの中へのone-to-one 関数が存在するような順序数の全体は高々集合である.』となるが,前段の数学的な記述は英文だけからでは読み取れなくて,後半から推定したものである.ここはまあ,Jech先生の手抜きであろう.英文解釈の問題はともかく,数学のステートメントとしてまとめておこう.

 集合Sに対して,その上のwell-ordering全体の集合をWO(S)と書く.WO(S)が集合なのは,二項関係R \in P(S \times S)のうちで,well-orderingという条件(これは論理式で書ける)を満たすものなので,選出公理より集合となるからである.
\cup_{S \subset X}(\{S\}\times WO(S))は置換公理と和集合の公理から集合である.\{S\}を掛けておくのは disjointな和にしておきたかったからである.これが前半の英文の意味である.

WO(S)の元にそれと順序同型な順序数を対応させる写像\phiは関数である.①の集合の元に対して,第二成分に射影してから\phiを掛けるという対応も関数であり,置換定理からこの像は順序数の集合となる.これが二番目の文の意味である.

 順序数\alphaからXの中へのone-to-one関数はその像としてXの部分集合Sを定め,同時に\alphaの構造からSにはwell-orderingの構造が入る.逆に部分集合Sとその上のwell-orderingが与えられると,それと順序同型となる順序数\alphaが唯一決まり,同時に\alphaからSの上へのone-to-one関数が定まる.ということで,①,②により\{\alpha \in Ord:\mbox{there is an one-to-one function } \alpha \mbox{ into X}\}が集合であり,真のクラスであるOrdを尽くせないため,h(X)が空でないということがわかる.
 以上より直ちに|\alpha| < |h(\alpha)|

(ii) \alpha=sup Xとする.\alphaが基数でないとすると,\exists \beta < \alpha(|\beta|=|\alpha|)で,f:\alpha\to \betaを上へのone-to-one写像とする.一方supの定義から,\exists \kappa \in X(\beta < \kappa \le \alpha).この状況はCantor-Bernsteinの定理での2つの濃度の等しい集合の間に集合が挟まれている状況なので,|\beta|=|\kappa|. しかし,これは\kappaが基数であることに反する□

 Lemma3.4からある基数\alphaより濃度が大きい基数が常に存在するので,その中で最小なものを\alpha^+と表記する.\aleph_0=\omega_0:=\omegaから始めて,\aleph_{\alpha+1}=\omega_{\alpha+1}:=\aleph_\alpha^+. 極限順序数\alphaに対しては,\aleph_\alpha=\omega_\alpha:=sup\{\omega_\beta:\beta < \alpha\}と定義する.\omega_\alphaは順序数と見ていて,実体は同じだが\aleph_\alphaは基数(集合濃度)と見ている.\aleph_0はいわゆる可算濃度であるが,\aleph_1がどんなものなのかはよくわからない.連続体仮説がZFCと独立であるので,\aleph_1が具体的にどうなるのか(たとえば連続体仮説を公理に入れると\aleph_1=|P(\omega)|)はモデル依存ということになろうか.