p-covering group of G と immediate descendant その2

本解説は O'Brien論文を解読しているのだが、多少のオリジナリティを出そうと,G^{*}の universality だけを使う証明にしようとしてずいぶんてこずり,気がつくとかなり更新の間隔があいてしまった.その間,残念なことに数学リングが無くなってしまい,いったい誰がこんなマイナーな群論ネタのブログなど見る機会があるのかという疑念も沸々と湧いてくる.まあ,それはそれとして計算群論を流行らせるのだ!という意気込みでぽそぽそと続けていきたい.論文解読が一段落したら実際にschemeでプログラムを書いて遊んでみたいと思っている...しかし,ブログはじめた動機とだいぶずれてきたような...


前回の構成で immediate descendantを列挙することができるようになったわけで,これで問題の半分が解決したことになる.もう半分はその同型類からひとつづつ選び出すという同型類の決定問題である.もちろんこの点でもO'Brien論文は抜かりない.
定理を述べるために少し準備をする.以前と同じく,有限p-群Gをd-generator かつ exponent-p class c とする.このときGの任意の自己同型\alpha \in Aut(G)に対して,G^{*}の自己同型\alpha^{*} \in Aut(G^{*})が存在して,
\begin{matrix}  & G^{*} & \to^{\pi} & G \\ \quad \quad \alpha^{*} & \downarrow & \quad \quad \alpha & \downarrow \\ & G^{*} & \to_{\pi} & G \\ \end{matrix}
が,可換となる.ただし,この\alpha^{*}\alphaに対しユニークには決まらない.その存在については,合成写像 G^{*}\to^{\pi} G \to^{\alpha} Gを考えると,G^{*}はd-generator p-群であり,合成写像の核はK=Ker \piであるから,もとよりKはelementary p-群で G^{*}の中心に含まれているため,G^{*}のuniversalityから,全射準同型 \phi:G^{*}\to G^{*}が存在するが,この\phiは位数の同じ群への全射準同型であるから実は同型である.そこで\alpha^{*}=\phi^{-1}とすればよい.
さて,\alpha^{*}は可換図式からK=Ker \piの自己同型写像を引き起こすことは容易にわかる.ここで次の補題が成立する.

Lemma


任意の自己同型\alpha \in Aut(G)に対して,\alpha^{*}K=Ker \piへの制限はユニークである.
すなわち 上の可換図式をみたす自己同型\alpha^{*}_1, \quad \alpha^{*}_2 \in Aut(G^{*})に対して,\alpha^{*}_1\| K = \alpha^{*}_2\| K.

<証明>
1) K \subseteq \Phi(G^{*}).
完全列 1\to K \to G^{*} \to^{\pi} G \to 1 に対して,それぞれのFrattini部分群による商群を作ると,
\begin{matrix} 1 & \to & K & \to & G^{*} & \to^{\pi} & G & \to & 1 \\   &     & \downarrow & & \downarrow & & \downarrow & & \\   & & K/\Phi(K) & \to & G^{*}/\Phi(G^{*}) & \to^{\bar{\pi}} & G/\Phi(G) & & \\ \end{matrix}
が可換となる.ここで,G^{*}およびGがともにd-generatorであることから\bar{\pi}は同型である.また,Kは中心に含まれかつelementary p-群であることから,\Phi(K)=1となる.これらのことより,KG^{*}/\Phi(G^{*})に送り込むと1となっている,すなわち K \subseteq \Phi(G^{*})が成立する.


2) \alpha^{*}_1\| \Phi(G^{*}) = \alpha^{*}_2\| \Phi(G^{*})
任意の元x,y \in G^{*}に対して,\alpha^{*}_1(x)\alpha^{*}_2(x)\piGに送るとどちらも\alpha(\pi(x))等しくなるため、その差はK=Ker \piの元で書ける.すなわち \alpha^{*}_1(x)=k_x \alpha^{*}_2(x)\quad,  \quad k_x \in K. 同様に\alpha^{*}_1(y)=k_y \alpha^{*}_2(y)\quad,  \quad k_y \in K. これらの交換子を作ると,Kが中心に含まれることより,[\alpha^{*}_1(x),\quad \alpha^{*}_1(y)]=[\alpha^{*}_2(x),\quad \alpha^{*}_2(y)].またpべきを作るとKが中心に含まれ,かつelemenary p-群であることから,(\alpha^{*}_1(x))^p=(\alpha^{*}_2(x))^p.これらのことと\Phi(G^{*})が交換子とpべきの元から生成されることより、\alpha^{*}_1\| \Phi(G^{*}) = \alpha^{*}_2\| \Phi(G^{*})


1),2)より, \alpha^{*}_1\| K = \alpha^{*}_2\| K.

上記のように\alphaから決まるKの自己同型を\alpha'と書く.

Theorem


有限p-群Gをd-generator かつ exponent-p class c とする.


このとき任意のGのimmediate descendant Hに対して,Kの真部分群Mが存在して,H \simeq G^{*}/M かつ  M P_c(G^{*})=K


逆に  M P_c(G^{*})=K を満たすKの真部分群Mに対して,G^{*}/MGのimmediate descendantとなる.


またこの対応下で、immediate descendant間の同型すなわち,同型\phi : G^{*}/M_1 \simeq G^{*}/M_2 に対して,自己同型\alpha \in Aut(G)が存在して,\alpha^{*}(M_1)=M_2 かつ \begin{matrix}  & G^{*} & \to^{\alpha^{*}} & G^{*} \\  & \downarrow &  & \downarrow \\ & G^{*}/M_1 & \to^{\phi} & G^{*}/M_2 \\ \end{matrix} が可換となる.


逆にimmediate descendantの条件を満たすKの真部分群M_1に対して,自己同型\alpha \in Aut(G)から誘導される\alpha^{*}による像M_2\equiv \alpha^{*}(M_1)は,またimmediate descendantの条件を満たし,同型G^{*}/M_1 \to^{\alpha^{*}}  G^{*}/M_2 つまり,immediate descendant間の同型を誘導する.

この定理より, M P_c(G^{*})=Kを満たすKの真部分群Mの集合の上に\alpha \in Aut(G)から誘導される\alpha'が作用し,それらの置換を引き起こすが,その作用による軌道がimmediate descendantの同型類に一対一対応していることがわかる.これで問題が完全に解けたことになるが,なかなか美しい結果である.<証明>
前半部の対応の存在は以前に証明した.後半部の同型の対応を証明する.
まず,同型\phi : G^{*}/M_1 \simeq G^{*}/M_2 から 自己同型\alpha \in Aut(G)を構成する.M_1,\quad M_2 \subset K=Ker(\pi)より、G^{*}/M_i \to^{\pi} G (i=1,\quad 2)が誘導される.これより短完全列 1 \to K/M_i \to G^{*}/M_i \to^{\pi} G \to 1 が得られる.
一方,自然な全射順同型\theta:G^{*}\to G^{*}/M_iP_cを作る操作の順序交換から,K/M_i=M_i P_c(G^{*})/M_i = \theta(P_c(G^{*})= P_c(G^{*}/M_i).また,P_cを作る操作と同型写像は交換可能であるから,結局 \phi(K/M_1)=\phi(P_c(G^{*}/M_1))=P_c(\phi(G^{*}/M_1))=P_c(G^{*}/M_2)=K/M_2 が得られる.
これより次の可換図式を得る.
\begin{matrix} 1 & \to & K/M_1 & \to & G^{*}/M_1 & \to^{\pi} & G & \to & 1 \\   &     & \phi \downarrow  & & \phi \downarrow  & & \alpha \downarrow & & \\  1 & \to & K/M_2 & \to & G^{*}/M_2 & \to^{\pi} & G & \to & 1 \\ \end{matrix}
ただし,\alpha=\pi \circ \phi \circ \pi^{-1} と定義する.(これがwell-definedであるのは \phi(K/M_1)=K/M_2 から.)また\alphaが同型であるのは図式をたどればわかる.
次に\alpha^{*}をひとつ選んで,図式
\begin{matrix}  &  & G^{*} & \to^{\theta} & G^{*}/M_1 & \to^{\pi} & G &  &  \\   &     & \alpha^{*} \downarrow  & & \phi \downarrow  & & \alpha \downarrow & & \\  &  & G^{*} & \to^{\theta} & G^{*}/M_2 & \to^{\pi} & G & &  \\ \end{matrix}
を考えると,外周りの四角と右側の四角が可換となっているが,左の四角は残念ながら(自動的には)可換とはならない.これは\alpha^{*}を勝手に選んだことに起因しており,定理の主要結果としてはその制限である\alpha^{*}\|K(Lemmaより\alpha^{*}の選び方に依らない)だけが重要なのであるが,\alpha^{*}を次のように修正することで,上の図を可換にできる.
まず,G^{*}の生成元を\{x_i\}として,\phi(x_i M_1)=y_i M_2, \quad y_i \in G^{*}とする. \phiが同型写像であることと,G^{*}/\Phi(G^{*})\simeq  (G^{*}/M_i)/(\Phi(G^{*})/M_i) \simeq (G^{*}/M_i)/\Phi(G^{*}/M_i)により,\{y_i\}G^{*}の生成元になっている.ここにx_i \mapsto k(x_i)\equiv {y_i}^{-1}\cdot \alpha(x_i)なる対応を考えると,\pi({y_i}^{-1}\cdot \alpha(x_i))=(\pi \circ \phi(x_i M_1) )^{-1} \cdot \pi \circ \alpha^{*}(x_i) = (\alpha \circ \pi (x_i))^{-1} \cdot  \alpha  \circ \pi(x_i)=1であるから,k(x_i)\in K となっている.もし、対応kが、準同型k:G^{*}\to Kに拡張出来たとするならば,準同型\bar{\alpha}^{*}:G^{*}\to G^{*}\bar{\alpha}^{*}(x)=k(x)^{-1} \cdot \alpha^{*}(x), \quad x \in G^{*}と定義すると,\bar{\alpha}^{*}(x_i)=y_iとなっており, \{y_i\}G^{*}の生成元であるから\bar{\alpha}^{*}全射となり,よって同型となる.このとき\bar{\alpha}^{*}は,\alpha^{*}の代わりに,前出の図式を可換とするものになっている.
さて,拡張kについては,自然準同型G^{*}\to G^{*}/\Phi(G^{*})による\{x_i\}の像\{\bar{x_i}\}がぴったりd個のG^{*}/\Phi(G^{*})の生成元となるように選んでおけば,G^{*}/\Phi(G^{*})およびKがelementary p-群であることから,準同型\bar{k}:G^{*}/\Phi(G^{*})\to K\bar{k}(\bar{x_i})=k(x_i)を満たすものが定義できる.これと自然準同型をつなげれば求めるものとなる.


次に定理の後半の逆の部分を示す.まずM_2Kの真部分群であることは自明である.M_1に対する条件M_1 P_c(G^{*})=K\alpha^{*}をかければ\alpha^{*}(M_1) \alpha^{*}(P_c(G^{*}))=\alpha^{*}(K)となるが,\alpha^{*}(K)=Kで,またP_c(G^{*})G^{*}の特性部分群であることから,\alpha^{*}(P_c(G^{*}))= P_c(G^{*})となり,M_2 P_c(G^{*})=Kとなる.同型G^{*}/M_1 \to^{\alpha^{*}}  G^{*}/M_2 は,x M_1 \mapsto \alpha^{*}(x) M_2で与えられる.
証明終わり.