Awodey『圏論』第9章(9.1節)

ずいぶん放置していたが、リアルのお仕事が結構忙しかったのである。しかし、9章は『本書の見せ場』と著者自ら書いているところなので、こちらも書かずにはおられない。

9.1節は随伴の導入という位置づけらしく、次節の定義9.6(p.242)で正式な定義がなされる。随伴の概念は圏論では重要であるが、そのありがたみはやはり実例の中で示されないといけないという立場でいろいろと例がでてくるようだ。そこでまずは、例9.3を少し詳しくみていく。

この例は、ざっくり『忘却関手の左随伴は自由な構成』という現象らしい。面白い。
さて、Low(P)がPの余完備化であることの証明は読者にまかされているが、Low(P)が下に閉じているようなPのサブセットの集合(に包含関係で順序を入れてある)であることから、その完備性はほとんど明らかである(下に閉じている集合の和集合はこれも下に閉じている)。P\to Low(P)は、p\in Pに対して、PのサブセットU_p \equiv  \{p'|p'\le p\}を対応させる。もちろんこれは順序を保っている。あと”自由”という部分を補足しておきたい。ここでいうFが自由とは、余完備なFと写像P\to Fがあり、もし、余完備なAとP\to Aが与えられた時、F\to Aがユニークに存在して、P\to AP\to FF\to Aの合成になるという意味である。いわゆるPからの写像が常にFに持ち上がるということである。

先の例で、実際にf:P\to Aに対して \tilde{f}:Low(P)\to Aがどうなるかというと、\tilde{f}(U) \equiv \vee_{p\in U} f(p)とすればよい。右辺はAが完備であるので存在している。


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・p.235 真ん中あたり
 誤『特別な関手間の関係に関心がある』
 正『特定の関手間の関係に関心がある』
 原文『one is concerned with the relation betwwn specific functors.』

 細かいですが微妙な誤訳かと。


・p.237 最初の式の下あたり(てつさん指摘分)
 誤『右随伴をもつための条件はCが二項積をもつことである』
 正『右随伴をもつための必要十分条件はCが二項積をもつことである』
 原文『has a right adjoint if and only if C has binary products』

 こういう点をおろそかにしてはいけないでしょう。数学書の訳としては...