Awodey『圏論』第4章その1(4.1節まで)

なぜ、原著者がこの4章の内容をこの4章の位置に持ってきたかはよくわからないが、けっこうややこしいというか、こんがらかってしまいそうになる内容を今ここで述べる必要性があるとは思えない。後の構成の都合なのかもしれないが、とても初学者向けとは思えないのである。まあ、ここは一読目はさらっと流すべきかもしれない。
それはさておき、原文の難解さに比例して誤訳が増えるので、訳書ではさらにわけがわからない事態に陥っているのだが、最初、これに気付かず、本章の内容がまったく理解できなくて、己の数学的能力はこんなもんかと挫折感味わったほどであった。いやマジで。

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間違い探しいきます。

p.89 下から9行目
 誤『群の圏における群はアーベル群である.』
 正『群の圏における群はアーベル群であり、また任意のアーベル群も群の圏における群となる.』
原文『The groups in the category of groups are exactly the abelian groups.』

 これは原文の"exactly"を見過ごしたための誤訳ですが、その誤訳のままでは、続く証明中の後半部分は不要となってしまいます(ここすごく気持ちが悪かった)。原文の直訳的な意味は、『群の圏における群の集まり(The groups in ...)とアーベル群の集まり(the abelian groups)は正確に同じものである.』ということです。


p.90 7行目
 誤『強モノイダル圏はCatにおけるモノイドと同一のものである.』
 正『強モノイダル圏はCatにおけるモノイドに正確に対応している.』
原文『A strict monoidal category is exactly the same thing as a monoid in Cat.』
 誤訳と言えないかもしれません。上の試訳もあまり上手くないですが、数学書で"同一"という用語は定義が必要なくらいなので、慎重に使うべきかと。最初、強モノイダル圏がCatに埋め込まれているのか思ってしまった。え、そんなこと思わないって?


(ごめん、私の勘違いでした。圏なんだから Catに埋め込まれてるのはあたりまえ...CatがSetsに見えた...)
(追記)p.12によるとモノイドの定義は2つの元に対して、積が定義されて、また特殊な元として単位元をもつものとあり、かなり一般的です。これをCatで考えるとそのオブジェクトは圏なので、圏のオブジェクトに対して積が定義され、またある特殊なオブジェクトが存在してその積の単位元となるという強モノイダル圏の定義そのもの...なんですが、もとのモノイドの定義は集合論の中で考えている(\in記号を使うところ)フシがあるのでうるさくいうと完全には同一とはいえないような気がまたしてきました。もう、かなり重箱のすみっこです。ここは数学の命題というより、原著者のトークであるという理解でいいと思います。


p.90 7行目
 誤『基礎の圏が半順序集合Pであるような例は、交叉 x \wedge yと結合x \vee yを含み,(Pがこれらの構造をもつと仮定して)それぞれ終対象1と始対象0を単位元としてもつ.これは、成分ごとに順序づけられた単調写像f:P\to Pの半順序集合End(P)について\otimesを合成g\circ f,単位元1_Pとするのと同様である。』

 正『基礎となる圏が半順序集合Pであるような例として、(Pがこれらの構造をもつと仮定して)交叉 x \wedge yと結合x \vee yがあり、それぞれ終対象1と始対象0を単位元としてもつ. 単調写像f:P\to Pを成分ごとに順序づけることで得られる半順序集合End(P)について、\otimesを合成g\circ f,単位元1_Pとするとまたその例となる.』

 原文『Examples where the underlying category is a poset P include both the meet x \wedge y and join x \vee y operations, with terminal object 1 and initial object 0 as units, respectively (assuming P has these structures), as well as the poset End(P) of monotone maps f:P\to P, ordered pointwise, with composition g\circ f as \otimes and 1_P as unit.』


 誤訳以前にわけがわからないです。後半の『これは...と同様である』の内容とそれが前とどのように同様なのかさっぱりです。しかし、実際は原文によると、ここの文の内容は異なる3つの例があげられているにすぎません。まー原文もたいがいですが... ちなみに"成分ごとに順序づける"とは次の意味です。


 f \leq g \Leftrightarrow \forall a \in P(f(a) \leq g(a))


p.90 15行目
 誤『つまり多くの対象と射をもつ全うな圏をもつ圏は』
 正『つまり多くの対象と射をもつ全うな圏をもつ強モノイダル圏の族は』
 原文『that is, ones having a proper category with many objects and arrows』

さらに一般的な強モノイダル圏は More general strict monoidal categoriesと複数になっているため、ある種の強モノイダル圏の族と解釈すると上のような訳になると思いますが、”もつ”がかぶっていて試訳もいけてません。


p.90 下から5行目
誤『モノイド積 m \otimes n単位元であり、これによりm+nと0は単位元である。』
正『そしてモノイド積m \otimes nm+nであり、0は単位元である。』
原文『The monoidal product m \otimes n is then m+n and 0 is the unit.』

amazon書評で例示させていただいたものです。is が一つ余りますよね。


p.91 7行目
誤『完璧ではない理論』
正『完全ではない理論』
原文『theories that are not complete with...』

ここでcompleteはモデル理論に対しての完全性を意味します。p.152 命題6.14を参照のこと。