Awodey『圏論』第3章

(2015/12/8 p.72 下から6行目『拡張』などを追記

さっそく間違い探しです。

p.61 4行目
 誤『また正しい文章となる』
 正『また文法的に正しい文となる』

 『正しい』の原文は『well-formed』なので、もちろん"真"という意味ではないですが、誤解を避けるために『文法的に正しい』がいいかと。それはそれとして訳文の”文章”はやっぱりへんですよ。他の箇所は”文”だし。ただ、本書のどこにもwell-formedの定義はありません。また、その後の6行目の『なぜならば』以下の説明の一文は数理論理学をかじっていないとなんのことやらだと思います。(たとえば)圏のタームはnonlogical symbolとして導入した一階述語論理で、導出Σ⇒Δ に圏の公理を使用しないとき...みたいな内容をこちらが補充しないといけないです。しかし、むしろ、本書ではこういった圏論の形式的な定式化をあえて避けている印象があります。このあたり本書のスタンスと理解すべきなのかもしれません。


p.64 9行目
 誤『\{\alpha_1\}+\{\alpha_n\}+
 正『\{\alpha_1\}+\{\alpha_2\}+


p.64 下から3行目
誤『M(A)+M(B)が要求される』
正『M(A)+M(B)に要求される』
原文『the required UMP of M(A)+M(B)』

誤訳と断定するほどではないかもしれませんが、M(A)+M(B)がなにか別にあるような誤解を生むかもしれません。この直後の”台集合”がどうのというコメントは、M(A)+M(B)の定義はM(A+B)なのであって、何かM(A)とM(B)から構成したものでないということを言っているにすぎません。freeでないMonoidに関しての一般的なcoproductは 例3.9.で述べられています。こういう文脈では、練習問題 p.81 下から4行目のM(A)+M(B)も誤解を招くと思われるのですが、原文もそうなってました。


p.66 10行目 (圏論板より)
誤『証明の恒等命題を射とみるとき恒等射とするので』
正『証明が同一のとき、射として同一とするので』
原文『since we are taking identities of proofs as identities of arrows』

ここはまったくの誤訳です。"identities of proofs"は、そもそも"恒等命題"と訳せませんが、"証明の同一性”を意味します。as 以下の後半も同様です。
"証明の同一性"とは証明図としてのまったく同じであることで、それゆえに[p,q]\circ i_1=pなどが一般に成立しないのです。
圏論板では訳注1も意味不明と批判されていましたが、φ→φ∨ψ→θをφ→φ∨ψの証明とφ∨ψ→θの証明をつなげたものと理解すれば、まあ、OKかと。また巻末の練習問題の5の解答の訳文もおかしいとの批判でしたので、そちらも調べてみたところ、誤訳がありました。試訳として数学的な意味から意訳したものを挙げます。


p.322 下から6行目
誤『導入と消去の規則により、自動的にその選言肢のどちらかからの余積の、そして、各々の選言肢から始まり、選言肢から始まる単独の証明に入る証明の対からの写像(証明)が与えられる。』
正『導入の規則により、それぞれの選言肢から余積への写像(証明)が自動的に与えられ、そして、選言の消去の規則により、各々の選言肢から始まる証明をもとにして余積から始まる単一の証明が自動的に与えられる。』
原文『The intro and elim rules automatically give us maps (proofs) of the coproduct from either of its disjuncts, and from pairs of proofs that begin with each of the disjuncts into a single proof beginning with the disjunction.』


p.323 3行目
誤『選言肢の消去』
正『選言の消去』
原文『disjunction elimination』

ちなみに"選言肢の消去"という数理論理学の用語はありません。


解答のその後はごちゃごちゃ説明がありますが、次の一行証明で一発です。
[p,q]=[r\circ i_1,r\circ i_2]=r
(最初の等式はrに対する条件、2つ目の等式は射の同値類の定義から)


(追記
圏論板で提示されていた箇所がさらに2つありました。
p.72 下から6行目 (圏論板より)
誤『延長』
正『外延』
原文『extention』


p.82 演習問題10 (圏論板より)
誤『余積』(二か所)
正『余等価子』
原文『coequalizer』