Awodey『圏論』第2章

本章で面白かったのは、例2.8の選択公理とエピ射の分裂との関連だった。謎の多い選択公理が群や環論でおなじみの分裂の概念と等価とあって軽いショックを受けた。圏論数学基礎論を書きなおすというような試みもこんな仕掛けがからんでくるのかもしれない。このあたりはトポス関連らしいが、トポスについては本書では8章でちょろっと出てくるようだ。

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さて、間違い探しですが、第2章はちょこっとした誤植、2ちゃんねる圏論板で指摘されていたp.49あたりの型理論での不適切な訳語、および p.54上あたりに誤訳があります。


p.35 下から1行目 (てつさん指摘分)
 誤『mはエピ射である.』
 正『エピ射である.』


p.49 真ん中あたり (圏論板より)
 誤『結合変数』
 正『変数の束縛』
 記号論理学では bind および binding はすべて『束縛する』『束縛』と訳さなければならないと思う。なぜかp.50ではちゃんと束縛変数となっている...


p.50 真ん中あたり (圏論板より)
 誤『恒等式1_A
 正『恒等射:1_A
 意味から言って、:の左はすべて圏論の概念でなければならない。


p.52 8行目 (圏論板より)
 誤『推論の注釈つきの規則』
 正『注釈つきの推論規則』
 原文 『annotated rules of inference』で "rules of inference"の訳は記号論理学では『推論規則』一択である。


p.53 下から3行目 (圏論板より)
 誤『終対象』
 正『三項積』
 原文は『ternary products』で"terminal object"と似てないことはないが...


p.54 5行目〜9行目
ここの訳文はわけがわからない。ただ、原文『Given no objects, there is an object 1 with no maps, and given any other object X and no maps, there is a unique arrow
! : X\to 1
making nothing further commute.』もたいがいだと思う。解読のヒントは Given no objectsと複数になっているところで、これは二項積AxBのAとBに何もオブジェクトを入れない場合の二項積という微妙なケースを想定しています。この極端なケースでも二項積が存在し(この場合の存在については、そういう仮定だということであんまりまじめに考えなくていいとも思いますが)、それを1と書いたわけです。任意のXについてA,Bが空っぽだと定義2.15でp_1,p_2,x_1,x_2は全て射が存在していないので、図式が可換であるという条件そのものが無条件で成立するとするので積の性質より、ユニークな射u(ここでは!と書いた)が存在するというのがこの部分で著者が言いたいことです。ホントにいらんこと書くなぁ...

訳文の修正はなかなか難しいですが、すくなくとも"there is an object 1 with no maps"で『射をもたない1つの対象1が存在し』は誤訳です。no mapsと言っているのはp_1,p_2のことであり、対象1は少なくとも恒等射を持っています。

私の試訳としては次をあげておきます。
『積の対象が二項とも無い場合を考えると、付随する射影の無い一つの対象1が存在し、他の任意の対象Xを与えたとき、Xから項への射が無くとも、積の定義図式の可換性は自動的に成立し、一意の射
! : X\to 1
が存在する。』 ...駄作じゃ!