生成言語学をこっそり学ぶ(その5)

第2節の後半は変換規則の定義です。まずは基本変換から。\varphi,\psiは定義2.7と同じとします。

定義2.8
(I) 基本削除 T_d(\varphi)\equiv^d R(\varphi)
(II) 基本置換 T_s(\varphi,\psi)\equiv^d E_l(\varphi)C(\psi)E_r(\varphi) ただし\varphiは内部を持つとする。
(III l) 基本左付加 T_l(\varphi,\psi)\equiv^d E_l(\varphi)[_{A_1}\cdots[_{A_m}C(\psi)I(\varphi)]_{A_m}\cdots]_{A_1}E_r(\varphi) ただし\varphiは内部を持つとする。
ここにA_1\cdots A_mは、I(\varphi)=[_{A_1}\cdots[_{A_m}\omega]_{A_m}\cdots]_{A_1} なるような最長のものとする。
(III r) 基本右付加 T_r(\varphi,\psi): 基本左付加とパラレルな定義とする。

となってるんですが、これ付加の定義が変じゃないですか? 真中が C(\psi)I(\varphi)でなくて C(\psi)\omegaなら自然な感じですが、上の定義だとカッコの構造がだぶってます。たとえば、C(\psi)=eの場合は何も付加しない、つまりもとのまま T_l(\varphi,\psi)=\varphi が自然だと思われますが、上の定義ですとカッコがだぶってとんでもないものができます。そこからカッコのリダクションすれば元に戻るといえば戻るのですが…後で例で確かめてみます。


定義2.8の後には、基本削除した後の形式が簡約化されていない場合があるとの注意があり、その後始末のための簡約化演算子\rhoを定義2.9で定義しています。


n項変換写像の定義2.10は記述がややこしいですが、n項のfactorizationに対して操作する場所が重複しないような基本変換を同時に行うものです。\omega_iは変換を受ける部分(iが偶数)と受けない隙間の部分(iが奇数)を交互に表しているだけです。いちばん外側のカッコは壊れない(変換を受けない)ようにしています。


節末の例(17)の[ T_r,(3,3),(8,8)]の所をやってみます。
\psi_3=[_{PP}[_{Aux} [_{Tense} past]_{Tense} [_{Aspect} [_{Perf} have\quad en ]_{Perf} ]_{Aspect} ]_{Aux}
\psi_8=[_{Passive}be en ]_{Passive} ]_{Prep-P} ]_{Agent} ]_{Manner} ]_{VP}
なので、C(\psi_8)=[_{Passive}be\quad en ]_{Passive}I(\psi_3)=[_{Aux} [_{Tense} past]_{Tense} [_{Aspect} [_{Perf} have\quad en ]_{Perf} ]_{Aspect} ]_{Aux}なので \omega=[_{Tense} past]_{Tense} [_{Aspect} [_{Perf} have\quad en ]_{Perf} ]_{Aspect}E_l(\psi_3)=[_{PP}E_r(\psi_3)=e となっています。
定義から T_r(\psi_3,\psi_8)=E_l(\psi_3)[_{Aux} I(\psi_3)C(\psi_8) ]_{Aux}E_r(\psi_3)= [_{PP}[_{Aux} [_{Aux} [_{Tense} past]_{Tense} [_{Aspect} [_{Perf} have\quad en ]_{Perf} ]_{Aspect} ]_{Aux} [_{Passive}be\quad en ]_{Passive} ]_{Aux}  となります。

(18)と比較すると対応箇所が同じになっていますので、定義2.8はこれで正しいようです。


定義2.11, 2.12で、前々回出てきた構造条件の定義をしています。

定義2.13で削除の復元可能性の条件、定義2.14で変換規則の最終形が定義されています。
最後に例が挙がっていて、それで第2節はおしまいです。ひと山越えた感はありますね。