数学基礎論 p.13〜p.15あたり

こっちのネタ本の方もすこし読み進めてみた。気になったところをコメントする。


P.13の命題1.2.1の下のあたりに、『どんな閉論理式の有限集合をとっても、それが任意の可除アーベル群で正しければ、可除でないアーベル群でも正しくなってしまう』というステートメントがあるが、これは正確には後半で『ある可除でないアーベル群でも正しくなってしまう』と”ある”が抜けている。”ある”は命題1.2.1にはちゃんとついており、これの類似の結論としては”ある”が必要となる。この”ある”を”すべて”にしてしまうと間違いで、実際、『2で割れる \exists x \forall y (2x=y)』という閉論理式を考えると、これは任意の可除アーベル群で正しいが、もちろん2で割れないような可除でないアーベル群では正しくない。
ただ、まあ、これはちょっと言い損ねたぐらいだと思う。


しかし、一方、P.15の命題1.2.2は結論が強くなっていて、おやっと思う。ぱらぱらページをめくってみたが、5章の章末の練習問題に似たようなのがあるぐらいで、証明はどうやら無いようだ(巻末のこの問題へのヒントは『コンパクト性定理を使え』である)。これが命題1.2.1の類似品だとすると、単に、標数が0でない”ある”体が存在して云々となり、命題1.2.2のように十分大きな素数pについてすべての標数pの体で成立するというような強い結論にはならない。


悩んだ結果、定理1.4.14 コンパクト性定理の系1.4.15を使えばうまく証明できることがわかった。ちなみに有限個の閉論理式というところはその連言を作れば、ただ1つの閉論理式にまとめることができるので以下、ただ一つの閉論理式\psiを考える。
体であることは本文にあるように有限公理化可能なので、その連言をFとしておく。また、標数がpでないことを表す閉論理式をT_p=[p\cdot 1 \not = 0]とする。

T=\bigcup_{p}\{T_p\wedge F\}標数0の体の公理の集合となる。


これに系1.4.15を適用すると、T\quad\mid =\quad\psiならば、有限部分集合T_0\subset Tが存在してT_0\quad\mid =\quad\psiが成立する。ここで、T_0に含まれているT_p\wedge Fの形の元で、pの最大のものをPとする。さて、ここでPより大きな素数qについて、標数qである任意の体はT_0のモデルになっているから、系より\psiのモデルになっている。すなわち十分大きな素数qについてすべての標数qの体で\psiが成立する。□


上の証明を振り返ってみると、『標数0の体全体が有限公理化可能でない』はどこにも使っていなくて、逆に有限公理化可能だとして、その連言を\psiとすれば、この証明から、十分大きな標数を持つ体が\psiを満たす、つまり、標数0であるという矛盾がでてくる。つまり、『標数0の体全体が有限公理化可能でない』ということもおまけで証明できたことになる。(ただし、無限に多くの素数qに対して、標数qの体が存在するということは既知としてである。)


このあたりの説明があるとされている本文の5章をいきなり読んでみようとしたが、いやはや、これはこちらの準備不足で、今すぐには歯が立たなかった。不覚にも、そもそも5.1で有限公理化の話をしているのかさえ読み取れない有様である。今後の自分の努力に期待である。